プロの漫画家は時間を止める⁉️ 一見上手な“夏祭りの男女”を描いた漫画、プロが添削した結果がスゴい
SNSを通じて多くのクリエイターが漫画を発表し、商業メディアで連載化するヒット作も続々生まれている昨今。一方で、力を入れた作品で思うような反応を得られなかったり、「独学」ゆえに改善点がわからず、悩みを抱えたまま疲弊してしまっているクリエイターも少なくない状況だ。 【画像】プロの漫画家は時間を止める⁉️ 一見上手な“夏祭りの男女”を描いた漫画をプロが添削 そんななか、プロの漫画家やイラストレーターがその技術や心構えを伝える動画コンテンツが人気を博している。なかには“有料級”と言っていい、プロデビューに向けた教材になり得る動画もあり、YouTubeで人気を博しているのが、元週刊少年漫画誌の連載作家・ペガサスハイド氏のチャンネルだ。視聴者から募った作品を添削する人気企画では、相談者の個性に寄り添いながら、「さすがプロ」と唸らされる的確なアドバイスを送っている。「漫画の仕組み」がよくわかるため、自分では漫画を描かない人にもおすすめしたい内容だ。 最新の添削動画のタイトルは、「漫画家志望者は時間を操れ! 簡単に漫画がプロ級に見えるテクニック」というもの。「時間を操れ」というのは気になるポイントで、何より「簡単にプロ級に見える」という言葉が漫画家を目指しているクリエイターに刺さる動画だ。 今回添削することになった漫画は、夏祭りに来た男女が、お見合いをしたことについて話している……というシーン。SFの要素があり、女性は、相手の男性がお見合いの場に「クローン」を寄越したことに論外だと激怒しており、男性はタジタジの様子だ。一見して画力がとても高く、ハイド氏も「線が綺麗で、絵を描き慣れている感じがします」「男女ともに美形でクール!」と高評価。無駄のないシンプルな構成で、素人目にはとても上手に見えるが、改善点はどこにあるのか? ハイド氏はいつものように元作品をベースにネームを引き直していく。詳しくは動画を視聴してもらいたいところだが、ハイド氏が初級のアドバイスとして第一に指摘したのは、「夏祭り」というシチュエーションが十全に描かれていないという問題だ。女性が浴衣姿であるため、前後のページがなくても夏祭りに来ていることは想像可能だが、ハイド氏が背景に屋台や提灯、人混み、はしゃぐ子どもなどを追加したネームを見ると、臨場感が全く違うことに気付かされる。周囲の楽しげなムードを描くことで、ふたりのシリアスなムードが強調される効果もあり、漫画としての面白さをアップさせる演出になっているという。 動画内でたびたび語られていることだが、漫画で重要なのは主人公やそれに近しいキャラクターだけではない。ハイド氏は「この世の中(作品世界)に生きているのは、主人公たちだけではないんですね。プロの漫画家はそこまで考えていて、映画でいうと、“通行人A”にも演技をさせているということです」と語り、そこまで考えられているかどうかが、漫画が面白くなる分かれ目だと指摘した。具体的に描かれない部分も含めて、作品世界が緻密に構築され、“通行人A”すら生き生きとした漫画かどうか。漫画を描かない人にとっても、作品を楽しむ上での解像度が上がりそうな話だ。 さらに、セリフのニュアンスについて。元の作品では、1コマ目で女性が男性に対して「先日お会いしたのはクローンですか」と問いかけているが、ハイド氏はこのセリフを「先日お会いしたのはクローンですね?」に調整。「ですか」という問いかけではなく、「ですね?」という確認の言葉にすることで、「わかっていますよ」という強めのニュアンスが加わり、男性にとって逃げ場のない雰囲気が作られる。そうすることで、男性側の言い訳を許さず、結果としてその後のセリフの量が減り、読み心地もよくなった。以降もテンポをよくするため、不要なセリフが削られた。 中級編のアドバイスは「キメ顔」のインパクトについて。元の作品も、女性が「論外です」と言い放つカットがキメゴマになっており、誰の目にも見せ所になっている。ハイド氏はそのことを評価しつつ、「表情があっさりしすぎていてもったいない」と指摘。添削後のコマでは、ただ顔をアップにするだけでなくメガネをキラリと光らせ、より知的で苛烈な印象を与える作画となった。 そして最後に語られた上級者向けのアドバイスが、動画タイトルにつながる「空気/時間を止める」。今回の投稿作品はレベルが高く、二人の関係性や会話の内容は読者にしっかり伝わるものになっている。しかし、ハイド氏は「サラサラと流れていってしまう」と指摘。面白い漫画、プロの漫画には「止め」があるという。実際に引き直されたネームを見てみると、元の作品にはなかったコマが挿入されている。「お見合いに来たのがクローンだった」ことを指摘され、驚く男性の表情。これが「止め」の一コマで、次のコマではお祭りにはしゃぐ子どもたちが描かれており、「静→動」のメリハリがついている。元の漫画ではすぐに男性が言い訳を始めており、確かに「止め」がない。確かに「プロの漫画」との違いはこの1コマだと感じさせられ、同時に、「簡単」と言うと語弊があるが、意識すれば見違える原稿になるに違いないポイントだということがわかる。 コメント欄は「投稿者さん上手いなぁーと思ったけどハイドさんがやっぱりすごい」「漫画の表現を通して、誰かに何かを伝えるときのコミュニケーションを教わっているような感じがします」「添削後、読者に与える印象がガラッと変わりましたね!す…すごいです!!」と、称賛の声で溢れている。動画内では、より細かな改善点に目を向ける「おまけトーク」も展開されており、漫画家を目指すクリエイターはぜひチェックしたいところだ。 ■参考動画:https://www.youtube.com/watch?v=g6bhm9HeP0Y
向原康太