和紙作家の2人に文化賞 奥野佳世さん、誠さんに和歌山県田辺市
和歌山県田辺市は31日、和紙作家の奥野佳世さん(73)と奥野誠さん(71)=いずれも田辺市龍神村東=に、市文化賞を贈ると発表した。地域に古くから伝わる「山路紙(さんじがみ)」を復活させ、和紙芸術へと昇華させるなど、和紙文化の普及と発展に貢献したことを評価した。 【森林への理解深める 上山路小6年生 紙すきのまとめ授業の記事はこちら】 佳世さんと誠さんは夫妻。佳世さんは大阪市生まれ、誠さんは和歌山市生まれで、ともに武蔵野美術大学を卒業した。旧龍神村が廃校舎を活用して「龍神国際芸術村」を立ち上げたことをきっかけに1984年、大阪から移住した。 クワ科の植物、コウゾを原料とする山路紙は、戦後いったん途絶えていた。移住後、その存在を知った佳世さんと誠さんは、かつて紙すきをしていた人たちから聞き取りをするなどして復活させた。 92年からは地元の小学校6年生を対象に、山路紙による卒業証書作りを指導。18年には中国・上海で二人展を開くなど、その作品は海外でも注目されている。 佳世さんの主な活動は山路紙の草木染で、自然の染料で鮮やかな色の紙を作り上げる。日本の在来種「和綿」の種の保存活動など、持続可能な循環型の地域づくりにも尽力している。 誠さんは2009年から「田辺市龍神山路紙保存伝承施設」を運営。11年には「全国手漉(す)き和紙青年の集い和歌山大会」を主催するなど、和紙文化の発展に尽力している。16年には県名匠表彰を受けた。 佳世さんは「人々が豊かな自然に包まれ暮らしながら、長い年月にわたり伝え続けてきた文化に秘められたメッセージを未来に伝える役目を果たせるよう、さらに精進していきたい」。誠さんは「先人の知恵に学ぶこと、水の技に敬意を払うこと、そして森からの恵みに感謝することを、紙に教えられた。受賞を大きな励みとして、紙の文化を次世代へ伝えていくという決意を新たにした」とコメントした。 ◇ 市文化賞は、旧田辺市で1970年に創設した制度を継承し、今回で55回目。市の文化発展に貢献した人を対象にしており、受賞は今回を含め84人となる。 贈呈式は11月20日に市役所である。
紀伊民報