【連載】会社員が自転車で南極点へ6「消えゆくガイド」
風が止まる、この大陸には音は存在しない!?
【連載】会社員が自転車で南極点へ6「消えゆくガイド」
ハァ・・ハァ・・・と息を荒げながら僕は歩いていた。周囲はどこを見回しても同じ景色。視界の半分から下は白。そして、半分から上は、青だった。ずっと先に黒い粒が見える。ガイドのエリックだ。ズッ・・ズッ・・・ズッ・・・・とテントや食料を載せたソリが鈍く響く。そして、ザク、ザク、ザクという足の踏み音がそれに続く。風が止まってしまった今、この大陸には、それ以外に“音”は存在しなかった。
南極大陸は非常に乾燥した砂漠地帯
午前6時。僕とエリックは、目を覚まし、出発の準備に取り掛かった。エリックは、テントの前室に用意してあった火器(MSR社のウィスパーライト)に火をつける。この火器は、ガソリンを使って簡単に火をおこすことができる優れモノだ。 炎がつけば、テントの中は一気に暖かくなる。火器の上に鍋を置き、前日の間に作っておき、保温水筒にいれておいたお湯を少し注ぐ。そのお湯が沸騰したら、前日の間に僕が用意しておいた雪の塊を次々に投入する。沸騰したお湯で塊はすぐに溶け、鍋の水かさは一気に増えた。 僕達は、沸騰したお湯をプラスチックのカップに入れる。カップには予めインスタントラーメンを砕いて入れてある。後はここにお湯を注げば、朝食の出来上がりだ。ラーメンだけでは足りないので、スニッカーズ等の携帯食料も一緒に頂く。そして、忘れてはならないのが水だ。 南極大陸は非常に乾燥した砂漠地帯。一晩で身体の水分が急速に失われるため、朝のうちに、しっかりと水を飲んでおく。少なくとも1Lから1.5Lは飲んでおきたい。 同時に、これから1日で飲むお湯もここでつくっておく。サーモスの900ミリリットル魔法瓶2本を用意し、片方にはココアを、片方にはお湯をこしらえる。朝食と水作りを終えたら、足早にテントの撤収に取り掛かる。予め荷物をテント内で2つから3つの大きな袋にまとめておき、それをテントの外に放り投げる。テントの中が空になったら、エリックと二人で一気にテントをしまいこむ。