ドイツの「旅職人」囲み建築技術や環境を語り合う 南房総(千葉県)
南房総市上堀の建築会社、村上建築工房で、「ジャーニーマンがやってきた!」と題したトークイベントがあった。安房の各地から約70人が参加。同社で大工の修業に当たっている2人のドイツ人男性を囲み、ドイツの職人制度や建築技術、環境への問題意識の持ち方など、幅広い話題について語り合った。 ジャーニーマンとは、直訳すると「旅職人」。ドイツには、さまざまな業種の職人を育成するシステムとして「マイスター制度」が取り入れられている。 大工の場合は、マイスターを目指す道筋の一つとして「ジャーニーマン制度」がある。3年間と1日、さまざまな国を渡り歩き、その国の大工の指導で技術を磨く。2人は職人の最高位である「マイスター」の資格の取得を目指している。 旅の間、持ち歩けるのはメジャー(物差し)と鉛筆だけ。スマートフォンの携帯は許されず、自分の力だけで現地の人とコミュニケーションを取って生活しながら修業にも当たらねばならないなど、厳しい条件が課される。 この制度で、同社には、ルーカス・ハワーさん(25)とマルコ・ベンズさん(23)が大工の修業に来た。2人のジャーニーマンとしての修業期間は2022年~25年。これまでに欧州各国を回り、同社に務めていた日本人大工の紹介で、9月末まで2カ月間滞在した。 同社の村上幸成代表が日々接する中で、「2人の貴重な体験や話を、うちの会社の中だけで留めるのはもったいない」と思い立ち、企画。7月に完成した同社内の交流スペース「職人テラス」のお披露目も兼ねて、地域の人たちを招いて、イベントを開催した。 イベントの当日、2人は8個のボタンがついたベストを着て登場した。ボタンの数はドイツの基本的な職人の労働時間である8時間を表す。ジャーニーマンの伝統的な制服だという。 参加者を前に、2人はマイスター制度を中心に、ドイツの職人を育てるための仕組み、制度や歴史などを解説。また、寒いからこそ発達したドイツ建築の断熱技術や、地震や台風が少ないからこそできる建築物の例などを紹介していた。 また、建築以外の文化も紹介。ドイツの国民は環境問題に関する意識が高く、電子レンジをあまり使わず、冷凍食品などはなるべく自然解凍することを心掛けたり、自然環境に負荷をかけるプラスチックは使わないようにしたりと、生活面で意識していることなどを話していた。 イベントには、安房地域の大工や木工職人といったものづくりの関係者や在住の外国人など、幅広い顔ぶれが参加した。2人が英語で話し、村上代表の知人が日本語に通訳した。イベントの後は、2人が作ったドイツの伝統料理を囲んで談笑が続いた。 マルコさんは、古民家を再生できる大工を目指しているという。「日本の木材の種類や、材料を無駄にしない切り方、道具の手入れ、多くのことを教えてもらった。修業中は日本のことを多く学んできたけど、トークイベントを企画してもらったおかげで、ドイツのことを日本に伝えることができてうれしかった」と笑った。 一方のルーカスさんは「たくさん参加者が来てくれてうれしかった。村上さんには、細部までよく考えて仕事をすることの大切さなどを教わった。小物から家まで造れる立派な大工になりたい」と話した。 村上代表は「新しい出会いや学びの場にできたと思う。初めてイベントを企画したが、やってよかった。また機会があれば開催したい」と話していた。 同社での2人の修業は9月で終わった。10月以降は、埼玉や北海道などを訪ね、引き続き日本国内で修業を続けるという。 (前木深音)