ナイキ 、D2Cへの転換が成功しなかった理由
最初のD2C戦略
この転換が2017年にはじめて公表されたとき、ナイキはD2Cに注力するため、多くの小売パートナーを切り捨てた。これには、ビッグファイブ・スポーティング・グッズ(Big 5 Sporting Goods)、ダンハムズスポーツ(Dunham’s Sports)、アーバンアウトフィッターズ(Urban Outfitters)、ディラーズ(Dillard’s)、ザッポス(Zappos)が含まれている。これによって、「新しい運営能力を生み出し、メンバーベースに数千万人もの新しいメンバーを加え、増分収益として120億ドル(約1兆7000億円)を超えるリターンが得られた」と、フレンド氏は話す。しかし、「同時に複雑性と非効率性も発生した」と、同氏は語った。 「この競合が激しい環境では、イノベーションを加速し、マーケットプレイスのエクスペリエンスを改良して、ストーリーテリングの効果を最大化し、速度と応答性を増す必要がある。これらはすべて消費者へのサービスを行うためのものだ」。 ナイキは当初、顧客は選択が可能ならブランドから直接買うことを選び、それによってナイキがより多くの利益を上げられると確信していたため、D2Cに狙いを定めた。そのため、5つのグローバル店舗のコンセプト(ナイキライズ(Nike Rise)、ナイキ ハウスオブイノベーション(Nike House of Innovation)、ナイキライブ(Nike Live)、ナイキスタイル(Nike Style)、ナイキユナイト(Nike Unite))と、4つのモバイルアプリ(ナイキ、ナイキランクラブ(Nike Run Club)、スニーカーズ(SNKRS)、ナイキトレーニングクラブ(Nike Training Club))を設立した。また、数百のトレーニングセッションをNetflixにアップロードし、ロブロックス(Roblox)での体験を開始した。 ナイキの2022年度におけるD2C収益は合計187億ドル(約2兆6600億円)に達し、報告ベースでは14%の伸び率であり、しばらくのあいだ、このD2C戦略はうまく機能しているようだった。しかし、アナリストが米モダンリテールに語ったように、ナイキは卸売の力を過小評価していたのかもしれない。特に、顧客ができるだけ特売品を探し求め、特定のブランドへの忠誠が薄くなる時期にそれが明確になった。さらにパンデミックの期間、ほかのランニングシューズのブランドがナイキの顧客に売り込みをかけた。また経済の全体的な状況も、自由裁量の商品購入を減らす顧客が増えた要因となった。 ウェドブッシュセキュリティーズ(Wedbush Securities)の普通株調査担当シニアバイスプレジデントを務めるトム・ニキック氏によると、ナイキがD2Cに注力したのは少し的外れだったかもしれない。「より大規模なD2Cビジネスを持つのは良いことだ。消費者とより密接につながるのも重要だと思う。しかし、消費者は選択肢を求めており、依然としてマルチブランドの小売業者に足を運ぶという点について、ナイキはマーケットプレイスに関する判断を誤ったのだと思う」と、同氏は話す。