優生思想にあらがう 見過ごされた「戦後最大の人権侵害」を取材して
「戦後最大の人権侵害」が6年前まで見過ごされていた。旧優生保護法(1948~96年、旧法)の下で「不良な子孫の出生を防止する」として、障害者ら約2万5千人に不妊手術がなされていた問題。報道機関も被害者の声を十分にはすくい上げていなかった。 2018年、被害者が国を提訴したことで注目が集まった。手術を強制されたと、実名で初めて訴えた札幌市の小島喜久夫さん(83)は「中東のアルジャジーラまで取材に来たんだよ」と振り返る。今年7月、旧法を違憲と断じる最高裁判決が出て、ようやく国による被害救済が本格化した。 旧法を過去の極端な事例だったということはできない。 人間を「できる」と「できない」で選別し、社会全体のためとして「できない」人の生を否定・軽視する――。旧法の前提である優生思想は、いまもこの社会にのっぺりと存在している。 特に社会全体の危機が生じると、私たちは優生思想へと一気に流されてしまう。戦後の食糧難や人口過剰への警戒感から旧法をゆるした。コロナ禍では経済を優先し、多くの高齢者や障害者を犠牲とした。 はたして私たちは、最高裁判決をことほぐだけでよいのだろうか。草野耕一裁判官の補足意見をかみ締める。 「旧法が衆参両院ともに全会一致の決議によって成立したという事実は、違憲であることが明白な国家の行為であっても、異なる時代や環境の下では誰もが合憲と信じて疑わないことがあることを示唆している」 一人ひとりの人権を守る。当たり前のことを見失わないようにしたい。(上保晃平)
朝日新聞社