『虎に翼』の優三に感じる「日曜劇場の妻」み。“主人公全肯定のケア要員”的ポジションを、このドラマはどう乗り越えるか【第9•10週レビュー】
まさに激動の一言。 優三(仲野太賀)の涙の出征で幕を閉じた『虎に翼』第8週。そこからの2週間は、直道(上川周作)、直言(岡部たかし)、そして優三と大切な家族を次々と失い、寅子(伊藤沙莉)は悲しみの底に。生きる気力を失った寅子ですが、新しい憲法の公布に鼓舞され、再び法律の世界に帰ってきます。けれど、一度折れた翼の後遺症は大きく、なかなか自分の意見を言えない日々が続きました。 【写真で振り返る第7•8週】『虎に翼』穂高や雲野ら、男性たちの言葉はなぜ寅子を絶望させたのか。「無理解の善意」が人の心を折る地獄 そんな寅子がアイデンティティである「はて?」を取り戻すまでが描かれた第10週。最後は花岡(岩田剛典)の死というショッキングな出来事で締め括られ、語りたいことを挙げるとキリがないのですが、今回はあえてある一つのトピックに絞らせていただきたいと思います。 毎朝夢中になって観ている『虎に翼』ですが、どうしても一つだけ、うまくまだ自分の中で飲み込めていないことがあるのです。それは何か。優三についてです。 ここからは愛を込めて優三さんと呼ばせていただきますが、寅子の最大の理解者であり、寅子を常に支え、死してなお寅子のお守りとして心の中に存在し続ける優三さん。名前の通り優しいその人柄は、理想の夫として多くの視聴者から愛されました。 僕自身も優三さんが大好き。特に仲野太賀の好演もあり、別れ際の変顔は思い出すだけで瞼がじわっと熱くなります。けれどその一方で、優三さんを理想の夫として称えることに若干の気まずさというか後ろめたさのようなものを覚えるのです。 なぜなら、優三さんに「日曜劇場の妻」みを感じるから……!
日曜劇場が描いてきたケア要員としての妻
この記事を読んでいる方ならみなさんご存じかと思いますが、一応説明しておくと日曜劇場とはTBS系列で日曜21時より放送されているドラマ枠。実はその歴史は朝ドラや大河ドラマよりも古く、日本で最長寿のドラマ枠です。 特色は『カミさんの悪口』『サラリーマン金太郎』などのヒット作でもわかる通り、中年男性向けのドラマ枠であること。『ビューティフルライフ』のヒットにより2000年代は大きく方向転換しましたが、『半沢直樹』のヒットで再びサラリーマン路線へ。こうしたサラリーマンドラマに欠かせないのが、主人公の妻でした。 数多くの作品があるので一概にまとめるのは乱暴ではありますが、押し並べて日曜劇場に登場する妻像は、優しく気丈なしっかり者。時に夫に発破をかけながらも、常に夫を全肯定するキャラクターは、確かに魅力的ではありますが、一方で男性から見た理想像という印象も強く、男性たちにとって都合のいいキャラクターとして消費されている感が否めませんでした。 もちろん『下剋上球児』のように女性チームによって制作された作品もあり、必ずしも男性から客体化された妻ばかりではないのですが、さりとて『下剋上球児』の妻ですら「良き妻」「良き母」的なわかりやすいイメージを逸脱するものではなく、「日曜劇場の妻」の呪いは根深いなと思ったものです。そして、僕はそんな「日曜劇場の妻」に浅からぬ苦手意識を抱いていました。
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