「老老介護」で妻を殺害、80歳夫に執行猶予判決 ワンオペで献身的に世話するも限界「殺して自分も死ぬしかない」
「法律上許される最高の刑期、執行猶予」
長期間にわたって閉塞(へいそく)的な介護生活を強いられれば、介護相手に対して不満がたまっていきそうなものだが、被告は一連の公判で妻への不満を一切口にしなかった。そればかりか、その言葉からは深い自責の念、そして妻に向けた愛情が痛いほど感じられた。 判決当日、法廷に現れた被告はこれまでの公判よりも疲れた様子だった。開廷後、裁判長に「(証言台の)イスに座ってください」と促されると、立ち上がって深い息をつき、証言台へ移動。イスに座ると、裁判官や裁判員に向かって深く頭を下げた。 公判中、被告は介護生活を振り返り「ストレスは感じていなかった」と話していたものの、裁判長は「(本人が)自覚のないままに疲労感やストレスを蓄積していたことは容易に想像できる」「視野が狭くなった状態で犯行に及んだことは想像に難くない」と指摘。被告の置かれていた状況、本件に至る経緯を考慮した上で、執行猶予を付けたと説明した。 ただし「身勝手な行為に対する非難は免れない」「結果は重いということは何回も強調したい」とも述べ、「法律上許される最高の刑期、執行猶予とした」(※2)と言い添えた。 ※2 執行猶予は「3年以下の懲役・禁錮または50万円以下の罰金」の判決にのみ付されるため、刑罰が「死刑または無期もしくは5年以上の有期懲役」である殺人罪には原則として適用されない。ただし「罪を犯したことに酌むべき事情がある場合」などは例外的に減刑され、懲役の刑期が3年以下に短縮される場合がある。また、執行猶予の期間は最長5年。 被告は公判中、「こんな結末は夢にも思わなかった」と声を震わせながら語っていた。厚労省の調査(※3)によれば、要介護者等のいる世帯のうち「老老介護」をしている世帯(※4)は、2022年時点で63.5%となっている。 ※3 「国民生活基礎調査」の一環として3年に1度実施している介護の状況調査 ※4 「要介護者等」と「同居の主な介護者」がともに65歳以上だった割合 この先、老老介護が増加することは想像に難くない。同様の事件を防ぐために社会全体で対策を講じることは、火急の問題である。
弁護士JP編集部