「稽古が圧倒的に足りない…」 最速大関「大の里」に囁かれる不安 親方衆は「このままでは必ず怪我をする」
異例の公開稽古
二所ノ関親方の指導力にも不安は尽きない。そもそも、超大器と言われた大の里が二所ノ関部屋に入門したのは、部屋付きだった中村親方(元関脇・嘉風)によるところが大きい。 中村親方は2022年2月尾車部屋の閉鎖に伴い、二所ノ関親方の相撲道に賛同し、8人の力士を連れて二所ノ関部屋に移籍してきた。中村親方は日体大相撲部出身で、大の里とは先輩後輩の間柄。しかし、この6月、親方は独立し、中村部屋を設立。新部屋には同親方が連れてきた8人と呼び出し、床山の計10人が出ていく形になった。大の里は残留となったが、一時は中村部屋へ移籍するとの説も流れたほどだ。そうした影響もあったのか、今年夏場所、大の里が初土俵から7場所目で幕下付け出しの力士としては史上最速優勝を遂げた際も、「優勝の表彰式の後に記念撮影をするのですが、二所ノ関部屋の関取衆も力士たちもほとんど一緒に写りませんでした」(同)。 秋場所前にも異例の光景が見られた。二所ノ関親方は公開稽古で大の里と三番稽古(力量が同じ力士が何番も続けて稽古すること)を行った。部屋の親方が弟子自らに稽古をつけるのは極めて珍しい。これまでは中村親方が若手に稽古をつけてきただけに陣頭指揮をとった形だ。現役時代の二所ノ関親方は左四つで大の里は右四つの喧嘩四つ。結果だけを見れば10勝7敗で大の里に軍配が上がったが、二所ノ関親方はこの時、現役時代の代名詞とも言われた武器「左おっつけ」を伝授した。右四つからの攻めがほとんどだった大の里が秋場所で2度目の優勝を成し遂げたのは、この指導も大きかったと指摘されているが、しかし大の里には立ち会いや取り組みの最中に「腰高」になるというウィークポイントがある。二所ノ関親方の指導の真価が問われるのはこれからである。
弱体化する大関
大関になれば月給が三役(関脇、小結)から70万円増で250万円になり、海外渡航はファーストクラスで移動。「力士は車の運転が御法度ですが、大関は東京場所では地下駐車場に車で乗り入れができるなどその待遇が大幅にアップします」(相撲担当記者)。大関戦では100万円近い懸賞金がかかることも珍しくない。 一方で、相撲界では大関の弱体化が深刻な問題だ。平成29(2017)年7月に昇進した高安以降、正代、朝乃山、御嶽海ら7名が大関の地位から陥落しているのだから情けない。「ほとんどの力士に共通しているのが稽古不足で地道な稽古を続けていたのは先日引退した貴景勝(大関在位30場所)くらいだったが、首痛で引退せざるを得なくなった」(夕刊紙記者)。 大の里にも悪しき先輩大関たちと似た傾向が見える。新大関として迎える九州場所ではそれこそ褌を締め直すぐらいの気持ちで行かないと、報道されているほどには前途は明るくないかもしれない。
小田義天(おだ・ぎてん) スポーツライター デイリー新潮編集部
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