「中南米の人たちをサポートしたい」 音楽雑誌の編集者から弁護士に転身した丸山由紀さんの「放浪人生」
●議論すらなく進められた「永住資格取り消し要件」拡大措置
「在特祭り」が終わって以降、入管の対応は厳しさが増している。その経緯をバブル期にさかのぼって、丸山さんはこう説明する。 「1980年代末は超過滞在の人が多かったものの、彼・彼女たちは町工場にとって貴重な戦力でした。現場では、日本人がやりたがらない仕事をまじめにしてくれる人たちを容認する雰囲気もあったと思います。 1990年の入管法改正後、日系人が来日すると、在留資格のない人が減り、さらに技能実習生が来日すると、日系人の新規来日が減っていきました。日系人は定住者ビザがあるので追い出すことはできませんが、素行の善良性を求めることを告示するなど厳しくしていきます。 2012年に外国人登録証を廃止し、在留カードに変更されて以降、事情に関わらず在留資格を失った人は自治体に把握されることもなくなり、『いるのにいない、見えない人』にされていきました。 この間の動きからは、どんどん管理を厳しくする、そして、用が済んだらお引き取り願うという国の政策方針が感じられます」 今年6月に国連の人種差別撤廃委員会が日本政府に見直し・廃止を含む緊急措置を求める書簡を出した「永住者に対する在留資格の取消制度」も、こうした厳格化の延長線上にあると思われる。 だが、改定入管法に盛り込まれた「外国人の永住資格取り消し要件」の拡大措置は、本質的な議論のないまま進んでしまったと丸山さんは指摘する。 「そもそも永住者は厳しい条件・制度を通過して資格を得ています。ところが、今回、入管は立法事実の根拠となりうる資料をまったく開示していません。納税や社会保険についての罰則も、日本人と同じでよいのに、なぜ永住者にだけ厳しくするのか。その議論がされないまま、SNS等で差別的な言説がはびこってしまいました。 もう一つ、政府はこれから来日する人の話ばかりしますが、日本で生まれ、日本で暮らし、日本にしか生活基盤のない多くの人たちが視野に入っていません。 今まで国籍と選挙権はないけれど、あとはほぼ同じと思って暮らしていた永住者にとって、取り消し要件拡大措置は、政府の考えはそうではないこと思いしらされた法案だと思います」 1980~90年代に来日した人たちは、すでに老後を考える時期に来ている。永住資格取り消し要件拡大措置について、これから老後を迎える人の在留資格を不安定にしてどうするのかという気持ちが強くあると、丸山さんは話す。 「弁護士になって16年、在留資格については厳しい状況が続いています。ただ、ジェンダー関連など、他の人権分野については世の中の感覚は確実に変わっているし、進歩しているので、入管関連についても諦めずに続けていきます。希望は、日本で育った海外ルーツの人たちと、ごく自然に接している若い世代にあると思っています」 【プロフィール】 丸山由紀(まるやま・ゆき)弁護士 長野県出身。音楽雑誌の編集者、行政書士を経て、2008年弁護士登録。日弁連の人権擁護委員会入管問題検討プロジェクトチーム座長、移住連運営委員をつとめる。共著に『入管訴訟マニュアル』『外国人事件ビギナーズ』(いずれも現代人文社)など。 事務所:弁護士法人あると 事務所URL:https://www.alt-law-firm.com/