ライトノベル映画化?じゃなく、長ったらしいタイトルはほんのサワリの凝りに凝ったサバイバル・スリラーが爆誕した件。
90~00年代に活躍した俳優たちのもうひとつのサバイバル
俳優陣をみれば初めからバレバレだが、後半まで生き残るのはアンドリュー役のライアン・フィリップとグラン役のエミール・ハーシュだ。リドリー・スコット監督「白い嵐」(96年)やクリント・イーストウッド監督「父親たちの星条旗」(06年)で純朴で気弱な青年を演じたライアン。一方、マイケル・ホフマン監督「卒業の朝」(02年)やキャサリン・ハードウィック監督「ロード・オブ・ドッグタウン」(05年)では美しい若者だったハーシュ。ふたりとももうすっかりオジサンと化し、かつてのようにマスクだけで女性観客を惹きつける輝きはない。しかし、ベテラン俳優になったからこそ表現できるリアルな人間像、複雑なキャラクターがある。本作では90年代から00年代に活躍した彼らの成長と変化がたっぷり堪能できる。ふたりにとってはそれが映画界でのサバイバルだったのだ。そこが映画のもうひとつの魅力といえるだろう。 ことにエミール・ハーシュは2022年に本作のデュウィル監督と組み「The Immaculate Room」(純白の部屋 日本未公開)という作品を完成させている。それは真っ白でシミひとつない密室に50日間住むゲームで賞金を得ようとする男女の関係の変化を追求するソリッド・シュチエーションを逆手に取った実験的スリラーだった。本作もまた広大なで何もないアフリカの原野でいかにサスペンスを構築するか、監督と俳優で新たな挑戦を仕掛けたように見える。低予算でも底なしの恐怖と緊張を繋いでゆく。その技術と努力は映画ファンも学ぶべき要素が多い。 では最後にもう一度タイトルを。「飛行機に乗っていたら墜落して、凶暴な人食いライオンのいる原野に放り出された件」。ぜひ暗記して本編を鑑賞あれ。 文=藤木TDC 制作=キネマ旬報社
「飛行機に乗っていたら墜落して、凶暴な人食いライオンのいる原野に放り出された件」
●7月24日(水)レンタルリリース ●2024年/アメリカ/本編85分 ●監督・脚本:ムクンダ・マイケル・デュウィル ●出演:ライアン・フィリップ、エミール・ハーシュ、ディラン・フラッシュナー、ミーナ・スヴァーリ ●発売・販売元:プルーク © 2024 KALAHARI FILM LLC