『虎に翼』余貴美子の鬼気迫る表情の痛ましさ 原爆裁判では葛藤を思わせる“沈黙”も
余貴美子の演技の真髄を見た、百合の鬼気迫る表情
そこから1年の月日が経った昭和36年6月、百合の認知症の症状は悪化していた。銀行員となった孫ののどか(尾碕真花)をまだ大学生であると誤認したり、自分をのけものにして朝食を作っていることに腹を立てたりと、日常生活に大きな支障が出ている状況だ。寅子たちは話し合い、平日はお手伝いさんに百合のサポートをお願いしていた。次第に顔もやつれていく百合。おだやかな百合の鬼気迫る表情に余貴美子の演技の真髄を見た。認知症が進んでいくことへの不安や恐怖、葛藤が余の表情にも表れており、心が痛くなった。 鑑定人尋問では、国際法学者・嘉納教授(小松利昌)と国際法学者・保田教授(加藤満)の国際法の解釈は大きく割れていた。反対尋問でよねは何度も問答を重ねていく中で、「主権在民の日本国憲法において、個人の権利が国家に吸収されることはない。憲法と国際法及び国際条約の規定と、法的にはどちらを上位に考えればよいとお考えですか?」に対して、「戦時中に、今の憲法は存在しません」と答える嘉納教授。それに対して「原告は、今を生きる被爆者ですが」と答えるよね。いつもは冷静で淡々と話しているよねだが、嘉納教授に問いかける彼女の言葉には少しばかり怒りの感情が帯びていたように見えた。 寅子のモデルにもなっている三淵嘉子の功績のひとつとして原爆裁判での判決がある。史実では三淵が「アメリカの原爆投下は国際法違反である」と判決を下したとされるが、本作ではどのように原爆裁判を描ききるのか。
川崎龍也