バーバリーが定義する“イギリスらしさ”──異文化の混沌から新しいものが生まれる【2024年秋冬コレクション】
2月19日(英現地時間)、ロンドン・ファッションウィークでダニエル・リー率いるバーバリーの2024年ウィンターコレクションが発表された。 【写真を見る】バーバリーの2024年秋冬コレクションと来場セレブをチェック! 「どんなものが見られるか見当もつかない」と、そばにいたゲストの一人が話すのが聞こえてきたとき、私はマシュマロのようにふっくらとしたブラウンの座席に腰掛けようとしていた。2月19日(英現地時間)に発表されたバーバリーの2024年ウィンターコレクションは、ダニエル・リーがクリエイティブ・ディレクターに就いて行われた3度目のショーとなった。デビューショーのケニントン・パーク、その次のハイベリー・フィールズに続いて、会場にはまたしてもロンドン市内の公園が選ばれた。 ロンドン東部にあるヴィクトリア・パークには大型のテントが張られ、その頂上にリニューアルされた「馬上の騎士」モチーフをあしらった旗が波を打つようにはためいていた。その光景はもはやお馴染みとなってはいるものの、それでもリーが我々をどこへ連れて行ってくれるのかは予想がつかない。ちょうどショーの前日、バーバリーは自らを証明してみせる必要があるとする記事が『Business of Fashion』に掲載された。大小関わらず、多くのラグジュアリーブランドが現在の経済危機を感じ取っているところだろう。国内ほとんど全ての新聞記事が、イギリスは正式に不況に陥ったと報じているなか、バーバリーがすべきことは何なのだろうか? ■イギリスが誇る栄光の時代 スピーカーからエイミー・ワインハウスの堂々たる歌声が聞こえてきた瞬間、それははっきりとした。バーバリーは去りし良き時代に目を向け、そこから新しい何かを生み出そうとしているのだ。彼女の楽曲「You Know I'm No Good」に乗せて登場した最初のルックは、高い襟を備えたスレートグレーのトレンチコートだった。典型的なバーバリーである。しかしそれを着ていたのは誰か? インディーロック華やかなりし頃、多くのファッション広告の顔となったインディー・スリーズの代表格、アギネス・ディーンその人だ。その時代はもはや遠い昔のことだが、十分な月日が流れたために、今では輝かしい過去としてリバイバルの動きが出てきている。 マーク・ジェイコブスやセリーヌのショーでもモデルを務めてきたディーンだが、その存在感がより自然に馴染んでいたのがバーバリーのショーだった。なにしろ、そもそもインディー・スリーズ・ムーブメントを生み出した国がイギリスであり、その国を代表するラグジュアリーブランドがバーバリーなのだ。だから、同時代の象徴的なモデルの一人、リリー・コールがランウェイに登場したのも納得がいくことだった。そこには、まさにこの時期に青春時代を過ごしたダニエル・リーだからこその説得力があった。ショーで披露された服も、タイトなニットウェア、英国の労働者を象徴するドンキージャケット、ミリタリー感高めのトレンチコートなど、その時代を彷彿とさせる数々のアイテムがお目見えした。 それでも、リーのコレクションは一つの時代だけに寄りかかったものではなかった。細身のロックスター風スタイルと同じくらい、様々な別の時代からの引用が見られた。ズートスーツ(極端な大きさのジャケットやパンツが特徴のスーツ)や深いVネックのセーターは、2000年代の羽目を外したパーティールックを彷彿とさせた。ブーツは未来的かつアグレッシブで、力強さが漲っていた。バーバリーを象徴するチェックのスカーフを頭に巻いたバブーシュカのようなスタイリングは、TikTokの「GRWM(Get Ready With Me=私と一緒にお出かけの準備をしよう)」動画の男の子たちを連想させ、“今”を感じさせた。 サウンドトラックからは「いい? これはリユニオンじゃない」というワインハウスの声が聞こえてきた。彼女がまだ過度の注目にさらされる前の、初期のヒット曲「In My Bed」の一節だ。それでも、このショーはリユニオンのように思えた。オリヴィア・コールマンの近くにはスケプタが、彼の前にはフィル・ダンスターがいた。ほかにもカーラ・デルヴィーニュやバリー・コーガン、大きなコートを羽織ったジョナサン・ベイリーやカラム・ターナーら、お馴染みの面々がゲスト席を賑わせた。そしてもちろん、ランウェイを歩いたナオミ・キャンベルも忘れてはならない。これだけのセレブが一堂に会するイベントは稀である。バーバリーほどの成功を収めたブランドは、イギリス国内にほかにないのだ。会場では、誰からもこのブランドを積極的に支持しようという意志が感じられた。それはもしかしたら、歴史的にバーバリーが波に乗っているときというのは、イギリスという国が波に乗っているときでもあるからかもしれない。 ■イギリスらしい異文化の混合 「今回のコレクションで私たちは、バーバリーを着る人のことについて、またバーバリーを愛用する人々の異なる個性について、より深く考えるようになりました」と、リーはバックステージで語った。「私はこれまで、より都会的なブランドとしてのバーバリーと関わってきました。しかし、フットボール場で着る人もいれば、パブに着ていく人もいます。どんな層にも応えてくれる──それがバーバリーのユニークな点だと考え、ブランドを支えている異なるタイプの人々を表現したいと思ったのです」。60年代から活躍するベテラン俳優ジョアンナ・ラムレイの向かいにアーセナルFCの若手FWブカヨ・サカが座っているのを見て、彼の言葉は本物だということがわかった。イギリスのあらゆるタイプの人間を横断的に集結させることができるブランドは、バーバリーだけなのだ。 そしてそれが、リーのバーバリーが持ついちばんの強みなのかもしれない。異文化の奇妙な寄せ集めからなる“イギリスらしさ”とは、明確な説明が難しい、漠然とした概念である。さらに、そのイメージを服のような主観的なものに落とし込むのは至難の業だ。しかし、バーバリーの2024年秋コレクションには、そのイギリスならではの混沌が見事に表現されていた。ワインハウスの陰鬱な代表曲「Back to Black」のループ再生で幕を閉じたショーは、未知なる混沌への入り口のようにも感じられたかもしれない。しかしバーバリーは、イギリスという異文化混合装置を大いに楽しんでいるように思える。ショーが始まる前に耳にした「どんなものが見られるか見当もつかない」という言葉は、そこにいたファッションインサイダーたちの多くの気持ちだったはずだが、ブリティッシュファッションはいつだって“未知への冒険”から新しいものを生み出してきたのである。 From British GQ By Murray Clark Translated and Adapted by Yuzuru Todayama