オードリー「東京ドームライブ」盛況の理由 若者に媚びず、ローカルな世界観で巻き込むラジオモンスター
ノンスタ石田がぽつりと「スターやな」
そのほか、若林がスーパーボウルのハーフタイムショー出演時のエミネムを彷彿とさせるポーズで登場し、颯爽と自転車で東京ドームのアリーナ席を一周。ターンテーブルでのDJプレイ、星野源とのコラボでも会場を沸かせた。 一方の春日は、愛車のゲレンデをロープで引っ張り、車庫入れする企画に挑戦。この途中、若林が次々と車体にボールをぶつける演出は、1991年の『27時間テレビ』(フジテレビ系)でビートたけしが明石家さんまの愛車・レンジローバーを勝手に運転して車体をボコボコにしてしまった名場面を彷彿とさせた。その後も、フワちゃんとのプロレス対決で“邪道”大仁田厚のオマージュで登場するなど世代を感じさせる企画が目立った。 そして、最後はステージ上にセンターマイクがせり上がり、30分以上の漫才を披露。ネタライブを頻繁に行うコンビではないが、それでもネタ番組やイベントなど、ここぞいう場面で新ネタの漫才を披露してきた。やはり、彼らのベースは漫才コンビなのだ。 会場の関係者席には、アルコ&ピース・平子祐希、千鳥・ノブ、南海キャンディーズ・山里、パンサー・向井慧、マヂカルラブリー・村上ら同業者が固まって観ていたようだが、イベント終了後は誰も言葉を発しなかったらしい。 2月27日深夜に放送された『アルコ&ピース D.C.GARAGE』(TBSラジオ)の中で、平子は「何となぁ~く(筆者注:グッズの)ユニフォーム脱いで、畳んで、みんなカバンにしまって。『はぁ~……』って言ってる中、ノンスタの石田(明)がぽつりと『スターやな』って(笑)」とその時の模様を振り返っている。
あまりに身近な世界観が醍醐味
イベントの規模で見れば、たしかにスターとしか思えない。とはいえ、その核はトークパートにある。会場の真ん中、円形ステージにせり上がったラジオブース。そこで、2人はいつものように気負いのないエピソードを語り始めた。 若林がイベントに向けた体力作りの一環で、昨年から都内を自転車で走っていたものの、「行きたい場所がない」との理由から「Uber EATSの配達員をしている」と告白。王将のチャーハンセットのデビューを皮切りに、「54件くらい行ってる」と語って観客を驚かせた。途中、Uber EATS歴が長い後輩芸人・ビックスモールンのチロから配達の指導を受け、ようやくチップをもらって歓喜した話を差し込むあたりが実に若林らしい。 一方の春日は、番組内で話題に上がった荻窪の町中華「長楽」のポークライスにまつわるエピソードを披露。高校時代に若林と通った店だが、現在はすでに閉店。春日が店主の息子に連絡をとって当時の味を再現すべく試行錯誤を繰り返したという。そして完成した春日作のポークライスがステージに運ばれ、若林が一口頬張ると「スカそうと思ったけど、泣きそう」とニヤリ。その何とも言えない笑みが妙に印象に残っている。 まさにこの、あまりに身近な世界観がオードリーのラジオの醍醐味だ。例えばオードリーの中学・高校時代の同級生・谷口大輔氏。早くから番組に出演し、奔放な発言でリスナーからも慕われる存在となった。ちなみに現在、彼の勤務先「MIC株式会社」は番組のスポンサーとなっている。 若手時代のオードリーが切磋琢磨したショーパブ「そっくり館キサラ」にゆかりの深い芸人もたびたび番組に登場する。そのうち、ビトタケシ、TAIGA、ダブルネームのジョー、ニッチローは、東京ドームライブにも出演。コアなリスナーからは「なぜバーモント秀樹(西城秀樹のものまねで知られる芸人)は出なかったのか」との声まで上がっていた。 忘れてはならないのが、今年1月に公開され話題となった映画『笑いのカイブツ』(ショウゲート=アニモプロデュース)の原作者・ツチヤタカユキだ。彼は番組常連のハガキ職人だった。若林が放送作家になるよう勧めたことで交流が始まり関西から上京。人間関係が不得意なツチヤのエピソードを若林がよくラジオで語っていたものだ。ツチヤは、その後関西に戻り吉本新喜劇の作・演出(昨年3月に卒業)を務め、新作落語の創作に励むなど精力的に活動している。 決して正統派とは言えないバックボーンを武器に変え、そこに共鳴する者が加わって新たな展開を生んでいく。面白ければ、著名人であろうが一般人であろうが関係ない。少し手を伸ばせば触れられそうな距離感、空気感が、オードリーのラジオからは感じられる。その温かみのあるオリジナリティーこそが、番組の最大の魅力ではないだろうか。