2012年ANAオープンはデジャビュで藤田寛之さんと顔を見合わせた…「林」を越え払拭した10年前の苦い記憶【プロキャディー25年 梅ちゃんのツアー漫遊記】#4
【プロキャディー25年 梅ちゃんのツアー漫遊記】#4 2002年のANAオープンは55歳のジャンボ(尾崎将司)さんが777日ぶりの復活優勝で話題になりました。1打差で惜敗したのが藤田(寛之)さんです。 【写真】ゴルフ界の“ビジュアルクイーン”臼井麗香がコース新「63」の大爆発!前夜祭では「悩殺衣装」披露 最終日、16番のバーディーでジャンボさんに並ばれて迎えた17番。有名な左ドッグレッグのパー5。ジャンボさんは1打目を右ラフに入れて2打目は前の木にシャフトをぶつけながら、ピンが狙える位置まで運びました。スーパーショットです。 フェアウエーセンターへ運んだ藤田さんはそれを見て迷います。グリーンエッジまでは252ヤード。札幌GC輪厚コースの17番で2オンにチャレンジしたことは過去に一度あるか、ないか。その藤田さんが僕に聞きました。 「どうする? この林越えるか?」 「7対3でいけると思います」 藤田さんは冒険するタイプではありませんが、僕の一言でスプーン(3W)を抜き、果敢に林越えの2オンにチャレンジしました。ボールは無情にも林の真ん中に吸い込まれ2オンは失敗。このホールのボギーが勝負の分かれ目でした。いつものように2打目をフェアウエーに運び、ショートアイアンでピンを狙えばバーディーが取れる確率は高く、悪くてもパーだったでしょう。優勝したジャンボさんは「藤田のあのトライは素晴らしい」とコメントしたそうですが、僕は申し訳ない気持ちでいっぱい。ロッカールームで涙が止まりませんでした。 それからちょうど10年後。12年のANAオープン最終日。キム・ヒョンソンと首位で並び17番にやってきました。あの時と同じです。第1打が止まったフェアウエーの位置もほぼ同じ。セカンド地点へ歩いているとき、2人で思わず顔を見合わせ笑ってしまいました。 前日までは、「17番は絶対に2オンを狙わない」と公言していた藤田さんは、ティーショットを打った直後も「絶対に狙わないぞ」と言ってたのに、フェアウエーを歩いているとき「梅、どうする?」と言うのです。これも「あの時」と同じです。 「藤田さんはこの10年間、あの林を越えるためにゴルフをやってきたんでしょ」 僕はそう言いました。「刻みましょう」と言えば、当初のプラン通り3打目勝負にいったと思いますが、藤田さんは何も言わずスプーンを手に取り、林の上からグリーンを狙ったのです。林は越えたものの、ボールはスライスしてグリーン右手前のベアグラウンドへ。17番は3オン2パットのパーでしたが、18番は第1打を左に曲げたヒョンソンがボギーで藤田さんが勝ったのです。 43歳になった藤田さんはこの年、史上初の日本シリーズ3連覇を含む年間4勝をマーク。悲願の賞金王(約1億7515万円)となり、2回目の最優秀選手賞にも選ばれました。僕にとっても忘れることのできないシーズンは、あの試合抜きには語れません。 (梅原敦/プロキャディー)