大工場で1000人がスト、26歳女性が2入社4カ月で過労死…アジア実力調査で日本超え「インド」の“ブラック労働現場”で起きていること
インドの企業のほとんどがブラック?
インドの雇用はこれまでIT、金融などサービス業が牽引してきたが、これだけでは人口ボーナス(経済成長に有利な労働人口が増加する状態)を十分に生かすことができない。生産労働人口が世界最大であるにもかかわらず、製造業の輸出は世界19位だ。国際労働機関(ILO)によれば、製造業の雇用は6300万人に過ぎない。 専門家は「女性の労働参加率(約30%)と正規雇用(約10%)の低さを解消するため、労働集約型製造業を育成すべきだ」と主張する(9月28日付日本経済新聞)。 インドの今年度の製造業支援予算はわずか15億ドル(約2150億円)だ。対象もIT、製薬、自動車の3つの分野に限られている。政府は「外資頼み」を改め、サービス業から製造業全般に至るまで、成長エンジンをフル回転させるためにもっと汗をかけというわけだ。 雇用難の影響を最も受けているのは若年層だ。経済ブームに沸くインドで、ある若い女性の過労死事件が波紋を呼んでいる。 7月下旬、大手会計事務所アーンスト・アンド・ヤングで勤務していた公認会計士の女性(26歳)が入社約4カ月後に急死した。この事件をきっかけにネット上では「インドの企業のほとんどが『ブラック』だ」とするコメントがあふれ、「買い手市場の下で就業環境の改善がおぼつかない」との嘆き節が聞こえてくる(10月10日付クーリエ・ジャポン)。
旺盛な個人消費は“砂上の楼閣”
雇用難の若年層の間で広がる債務の急増も気がかりだ。 消費意欲の旺盛なインドの若年層は、クレジットカードで買い物をするのが常態化しつつある。民間調査企業によれば、インドのミレニアル世代(1981年から90年代半ばまでに生まれた世代)の3分の1とZ世代(1990年代後半から2000年代生まれ)の約40%が無理な借り入れで苦境に陥っている。 家計全体も同様の傾向だ。個人の可処分所得が経済全体の拡大ペースに追いついておらず、昨年の純金融貯蓄は40年ぶりの低水準となっている(10月6日付日本経済新聞)。 「安易な借り入れ」が支えているインドの旺盛な個人消費は“砂上の楼閣”と言っても過言ではない。若年層をはじめ国民の生活環境が改善されない限り、今後の持続的な発展は望めないのではないだろうか。 藤和彦 経済産業研究所コンサルティングフェロー。経歴は1960年名古屋生まれ、1984年通商産業省(現・経済産業省)入省、2003年から内閣官房に出向(内閣情報調査室内閣情報分析官)。 デイリー新潮編集部
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