観測史上最遠のIa型超新星「SN 2023adsy」が標準光源の性質を持つと判明
■「Ia型超新星」は宇宙の加速膨張を見つけるカギにもなった標準光源
遠い宇宙にある天体までの距離を測ることは一般的に困難です。ほとんどの天体は発する光の明るさや波長ごとの強度が異なるため、同じような明るさや色を持つ天体が同じ距離にある似たような性質の天体であるとは限りません。そのため場合によっては、「数千光年以内のにある暗い天体」と「数十億光年かなたの明るい天体」を区別できないこともあります。 この問題を解決するには、同じ距離で見た場合の明るさが常に同じ天体を標準光源として利用するのが便利です。明るさが同じであれば、見た目の明るさの違いをそのまま距離に置き換えることができるからです。 「白色矮星」と呼ばれる天体に別の天体からの物質が供給されることで発生する超新星の1種「Ia型超新星」は、伝統的に標準光源として使用されてきた天体の1つです。 白色矮星は太陽程度の軽い恒星が中心核での核融合反応を終えた後に残される天体であり、そのままでは何もエネルギーを生産することなく少しずつ冷えていきます。しかし、近くに別の恒星があって、そこから物質が供給されると話は変わってきます。供給された物質は白色矮星の周りに降り積もり、やがて止まっていた核融合反応が点火できるほどの圧力が発生します。この時に発生する反応は非常に高速であるため、太陽が100億年かけて放出するのに等しいエネルギーを一瞬にして放出します。これを遠くから見れば、突然の爆発現象で非常に明るい星が出現したように見えます。これがIa型超新星です。 Ia型超新星は、白色矮星自体の重さと、供給される物質の合計質量が臨界値(チャンドラセカール限界)を超えると急激に進行するという性質があるため、放出されるエネルギーの量、つまり明るさは常に一定であるという性質が期待されます。この性質は標準光源として都合の良い性質であり、様々な天文学の研究で多用されています。 例えば、私たちの宇宙が加速膨張しているという事実は、Ia型超新星を元にした銀河までの距離と、その銀河がどのくらいの速度で後退しているのかを元に発見されました。この発見は2011年のノーベル物理学賞の受賞対象となりましたが、その授賞理由は「遠方の超新星観測による宇宙の加速膨張の発見」となっています。