「男性なら、スオミに振り回される気持ちがわかる」映画『スオミの話をしよう』戸塚純貴、インタビュー。喜劇を演じる難しさを語る
現場でのアドリブと共演者との関係
―――戸塚さんのキャリアについてお話を聞きたいのですが、お芝居を本格的にやろうと思ったきっかけは? 「ジュノン・スーパーボーイコンテストというのに参加する機会があり、そこから芸能界に入りました。ちょうど仮面ライダーシリーズがイケメン俳優の登竜門と言われていた時代でした。僕は『仮面ライダーウィザード』(テレビ朝日系、2012)に出演させていただいたのですが、仮面ライダー出身俳優と言われることに次第に抵抗を持ち始めて、俳優・戸塚純貴として認められたいと思うようになったんです」 ―――俳優としてのスイッチが入ったのですね。 「周りが準備してくれる枠の中で満足せず、やはり自分から発信していかないと状況は変わらないと思いました。そこから演技に対するこだわりなど、深く考えて仕事に取り組むようになり、多くの作品や人に刺激を受けて、今に至るって感じです」 ―――これまで刺激を受けた人や作品はありますか? 「俳優になる前からジム・キャリーが大好きなんです。以前は、コメディー映画として楽しんで観ていたんですが『エース・ベンチュラ』や『マスク』などの作品を見返したら、作品を観る目が変わり、俳優の力や喜劇を演じる難しさを感じました。デビューしたばかりの頃は『日本のジム・キャリーになる!』なんて言っていたんですけどね」 ―――観るのと演じるのでは、やはり違うのですね。 「日本の俳優で言えば阿部サダヲさんもそうですが、実力のある俳優が作り出す喜劇の芝居はやっぱり凄いし、俳優として個性が確立されているんです。 僕も『ジム・キャリーみたいに』ではなく、戸塚純貴を確立させなければいけない。戸塚でないとできない芝居を作り出し『この役は戸塚に任せたい』と作り手の皆さんに言っていただけるようになりたいです」
俳優としての覚悟と未来
―――本作は、5人の夫たちがスオミにいいように振り回されているのが滑稽で可愛いとさえ思ってしまうのですが、戸塚さんは、スオミの夫たちみたいに女性に振り回される気持ち、共感できますか? 「わかりますよ(笑)。スオミは突然、夫の前から姿を消しますが、僕はかつて、お付き合いしていた方から突然別れ話を切り出されて呆然とした経験があります。 別れの予兆みたいなのは全然なかったし、嫌われるようなことをした覚えもなく、一緒に楽しくおしゃべりしながらご飯を食べていたときに、急に『別れよう』と言われて『ちょっと待って、どうして? 本気? 冗談?』みたいな(笑)。そのとき、女性はみんな男の知らないところで抱えているものがあるんだなと学びました」 ―――なるほど。スオミもそうだったのかもしれません。 「男性は、スオミに振り回される気持ちがわかるんじゃないかと思います。でもスオミも5人と結婚していたけど、それぞれの夫に合わせて自分を変えていたのは、その人が喜ぶことをしたい気持ちもあったと思う。それもまた愛じゃないですか。そういう人間的な深い部分も描いている作品だと思います」 ―――『スオミの話をしよう』以外にも今年は、荻上直子監督作『まる』などにも出演されて、話題作が続きますがご自身のキャリアが波に乗ってきたという感触はありませんか? 「30歳を過ぎてから、やりがいのある役を多くいただけるようになったと感じてはいます。ドラマ『だが、情熱はある』(日本テレビ系、2023)で演じたオードリーの春日さんの役も大きかったです。 これまでもいろいろな作品に出演してきたんですが、気づかれていないことが多く『なんか観たことのある俳優』というポジションだったんです。でも最近、サウナへ行ったら、隣にいた人たちが、僕が出演したドラマの話をしていたので『戸塚純貴が広まってきている!』と思ってうれしかったです。今までやってきたことが報われる思いでした」 ―――戸塚さんはたくさんの資格を持っていらっしゃるから、それらも役に活かせば、いろいろな役ができそうですね。 「あれは高校卒業後に、地元で車の整備士になろうと思って取得した資格なんですよ。『仮面ライダー ウィザード』のオーディションの時、大型バイクの免許を持っていたので、これは有利だ!と思ったけど『全然関係ないよ、就職試験じゃないんだから』と言われました。 正直、自分はこの仕事を死ぬまでやろうとあまり思っていないんです。いま楽しいから続けているけど、飽き性なので楽しくなかったら続けていられないと思います。でも、どんどん芝居が楽しくなっているので辞めるタイミングが見つからない(笑)」 ―――辞めるタイミングが永遠に見つからないことを願います! 俳優の仕事が楽しいというのは、どういうところでしょうか? 「やはり自分ではない誰かになれる瞬間というのは、何も変えられない快感がありますね。誰かの人生を疑似体験できるのですから、俳優業はやっぱり面白い仕事だと思います」 (取材・文:斎藤 香) ヘアメイク:千葉良太 スタイリスト:鬼塚美代子
斎藤香