山梨県甲府市のカルチャーショップ&スペース「文化沼」で小幡彩貴による個展『鐘が鳴ると何かを思い出す』が開催中。
シンプルな線画の中に生まれる余白に情景が浮かぶ。季節をテーマにイラストレーションを描き続けている小幡彩貴(さき)さんの作品を眺めていると、懐かしい何かを思い出す。 小幡彩貴 個展 『鐘が鳴ると何かを思い出す』 昨年6月、山梨県甲府市にオープンしたカルチャーショップ&スペース「文化沼」で、『鐘が鳴ると何かを思い出す』と題した小幡さんの個展を開催中だ。
甲府市出身の小幡さんは、桑沢デザイン研究所を卒業後、グラフィックデザイナーとして都内デザイン事務所での勤務を経て、結婚を機に2016年より甲府へUターン。これまで『おらおらでひとりいぐも』(著・若竹千佐子、河出書房新社)など多数の書籍の装画・挿絵や、イギリスの雑誌『MONOCLE』や中学道徳の教科書での挿絵、CDジャケットなどでのイラストを手掛けている。 2017年、commune Pressより『季節の記録 Records of the Seasons』を発行し、東京・京都・盛岡などの国内各地での巡回展や台湾・香港など海外でも個展を開催してきたが、在住にも関わらず山梨県内での個展は初めてだそうだ。
キュレーターとして、同じく甲府市出身で東京と山梨を往来しながら活動するグラフィックデザイナーの浦川彰太さんを迎え、夕方5時に市内で流れるチャイムに着想を得て企画が始まったという。チャイムが鳴っている時の生活について、文化沼と小幡さんで県内の人を中心にアンケートを実施。浦川さんは、「チャイムに気がつく人・気がつかない人。出勤する人・休憩する人・終業する人。ご飯を準備する。こどもを迎えに行く。窓を開ける。誰かを思う。暮らす人の数だけチャイムと生活が鳴り響き、当たり前だけれど同じ生活はないことがわかりました」と話す。
鐘が鳴る時の風景が16枚並び、そのどれもが県内での“誰か”の生活シーンだ。「5時だから帰る」「縁側で昼」「冬の朝」「学校の窓から」「ああ5時か」などと付けられた作品名から想像できる通り、本当に何気ない日常を掬い取ったもの。ただただ過ぎていく毎日への尊さ、見過ごされがちな景色がいかにかけがえのないものなのかを、小幡さんの絵は問いかけてくるように感じる。