鳥越2軍監督（奥右から2人目）

　西武の新ヘッドコーチに鳥越裕介氏（53）が就任しました。選手に寄り添い、今宮健太らを主力に育て上げるなど常勝ホークスの礎を築いた思考とは―。ライオンズ復活の鍵を握るキーマンがソフトバンク2軍監督を務めた2009、10年の記事を復刻しました。（西口憲一） ■戦力外選手、および引退発表選手はこちら【一覧】

【2009年6月23日西日本スポーツ　若鷹発つ日まで―鳥越2軍監督の奮闘㊤】

溌剌プレーを見せるルーキー立岡

　風が潮の香りを運んでくる。太陽に照らされ、土ぼこり舞う雁の巣球場のグラウンドが時々、精神の風景のようにも映る。189㌢の長身を折り曲げ、鳥越裕介はベンチに腰を下ろした。「コーチングはするけど、ティーチャーではない。大切なことは選手が教えてくれる」。2年間のコーチ時代から感じていたことが、最近確信になった。 　　「うれしいことがあって…」と振り返ったのは6日のウエスタン・中日戦だった。高卒新人の立岡宗一郎を9番サードでスタメン起用した。当初は1軍に昇格した松田宣浩に代わって、3年目の李杜軒を使うつもりだった。ただ、試合直前の練習に取り組む2人の姿勢に差があった。 　この試合の立岡は第1打席で初球を果敢に打って出た。中日は山井―小田の1軍経験バッテリー。捕手が覆いかぶさるように内角に構えた。「詰まるだろうな」。鳥越の読みは外れた。三塁線を襲った痛烈な打球。フェアまであと数十㌢のヒット性だった。春季キャンプ中に組んだ社会人との練習試合でバットすら振れなかった19歳は翌日の試合で初めて1番に座った。 　リハビリや調整で汗を流す主力から、基礎体力づくりが主の育成まで計47選手を預かる。30代後半から18歳まで年齢層は幅広い。「1軍の試合をテレビで見ていたとき、おれはおまえが楽しそうには感じなかった」。5月下旬。打撃不振で2軍落ちしたベテランの柴原洋と話し込んだ。打率3割を過去4度マーク。実績も経験も申し分はない。現役時代に一緒にプレーし、優勝の喜びも分かち合った。だからこそ、同じ釜の飯を食った戦友から伝わってこない「気」が歯がゆかった。 　　鳥越は柴原にこう伝えた。「10日後の試合から1番センターで使うから、もう一度野球を楽しめ。盗塁のサインも出す。若々しくグラウンドを暴れ回っていたころを思い出してみろよ」。若手の台頭でユニホームを脱いだのは、今の柴原と同じ35歳のときだった。自分に重ねる。夏場に2軍落ちしてから一度も1軍でプレーする機会は訪れなかった。世代交代の荒波、寄る年波が仮に存在するなら懸命にあらがってほしい。そう思うからこそ、かつて1軍でブレークしたときの「1番中堅」を用意した。「逆にいえば、あいつにとって今はチャンスなんだ」。すでに2盗塁。背番号「1」は何かを吹っ切ろうと、再スタートを切った。 　立岡に先発の機会を奪われた李にはこんな話をした。「頑張っているやつは、どこかで使おうという気持ちになる、でも、頑張っていないやつには、そういう気持ちにはなれない」。ある試合後の個人練習。立岡が黙々とティー打撃に取り組んでいた。外野では負けじと李が歯を食いしばりながらロングティーを行っていた。李は20日のオリックス戦で今季1号の同点3ランを放った。「おれは本気でぶつかるから、選手はうっとうしいと思うよ」。心底うれしそうな笑み。育成と再生のはざまで37歳の青年監督は奮闘している。＝敬称略 ▼西武・鳥越裕介新ヘッドコーチの思考とは…【関連記事】に復刻記事▼