両腕で歩くミャンマーの牧師と合気道開祖の「最後の内弟子」 Vol.23
まさに「地獄」の様相を呈している――2021年に発生した軍部によるクーデター以降、ミャンマーでは軍事政権の国軍(ミャンマー軍)と、軍事組織としてのKNLAを有するKNU(カレン民族同盟)やカチン州、シャン州、カヤ州などの武装勢力が組織した反政府(反軍事政権)の連合的武装組織PDFの戦闘が激化している。今年に入り、軍事政権はついに18歳以上の国民を徴兵するとまで発表した。 2024年現在、ミャンマーに向けられる視線は「反民主的な軍事政権VS民主化を求めるレジスタンス的武装勢力」の構図一色に塗りつぶされているが、はたしてクーデターが発生する前のミャンマー、そのディテールに目を向けていた者がどれほどいただろうか。 本連載は、今では顧みられることもなくなったいくつかの出来事と、ふたつの腕で身体を引きずるように歩くカレン族の牧師を支えた日本人武道家を紹介するささやかな記録である。
相棒との仕事
佐藤は自分の過去をあまり語りたがらなかったが、学生運動組織の幹部であったらしく、何らかの事件を起こして刑務所に入っていたのだと本間は推測した。親方はその佐藤を信頼して、山中の隔離小屋にあるダイナマイトの管理を彼に任せるようになった。 発破作業をする日の朝、佐藤と本間は現場に行く前にそこに立ち寄り、羊羹(ダイナマイトのことを羊羹と呼んでいた)50本入りの箱を持ち出した。本間がそれを背負い、佐藤が雷管の箱を持った。50本入りの羊羹は重く、背負う肩にロープが食い込んだ。 発破を仕掛ける現場では、本間がまず20キロの削岩機を抱えて断崖絶壁をロープで降りて行く。そして「ガッガッガッガ!!」と削岩機で岩壁にいくつか穴を空けた後、長いロープを振り子のように振って移動し穴に羊羹を埋める。 その作業が終わって本間が崖の上に戻ると、今度は佐藤が同様に長いロープを降りて行って、振り子になって岩壁を移動し、穴に雷管を差し込む。ダイナマイトの威力を増すために、彼は腰に付けた袋から砂を取り出して穴の隙間を塞いだ。本間と佐藤は、そんな危険な連携作業を毎日のようにやっていたのだ。