大学構内で大根栽培やザリガニ釣り…東京大学で「だめライフ」を実践する謎の集団を直撃 「高等遊民としてだらっと生きたい」
日本の受験エリートたちが集う東京大学に、「だめライフ愛好会」なる団体があるのをご存じだろうか。「だめ」をライフワークに――こんなモットーを掲げ、Xで日々発信を続けているのだが、投稿をさかのぼっても、活動内容は大学構内での大根栽培くらいしか確認できない。誰が、どんな目的で、何をしているのか。謎に包まれたその実態を探るべく主催者に取材を申し込むと、東大であえて「だめ」を追及する、意外な理由が見えてきた。 【写真】東大「だめライフ研究会」の“常連”たちはこちら * * * 取材の待ち合わせ場所として指定されたのは、東京大学駒場キャンパス内の、とある校舎裏。約束の時間を20分過ぎて、「東京大学だめライフ愛好会」を主催する、教養学部の白川さん(仮名、20代前半)が焦った様子でやってきた。 「すみません、この後ここで新歓の鍋パーティーを行うので、ブルーシートを取ってきます!」 そう言い残すと、さっそうと走り去っていった。 引き続き、待つこと10分。戻ってきた白川さんはいそいそとブルーシートを広げはじめたが、シートの一部がビショ濡れだったり、炭酸飲料のペットボトルを放り投げては一人慌てたりと、早くも“だめ”っぷりが垣間見える。 取材ということで校舎内で応じてもらえるのかと思いきや、そんな素振りはないので、記者もブルーシートの上にお邪魔して話を聞くことにした。 白川さんによると、会の歩みは、ざっくりと以下の通りだ。 昨年春ごろ、中央大学のだめライフ愛好会が、自動販売機の下に落ちている小銭を拾う活動をX上で報告していた。それに触発された白川さんは、仲間うちで東大キャンパス内の自販機を回って“小銭あさり”を決行。500円玉を落としても放っておく人がいる現実に驚きつつ、計1000円以上を回収した。
■キャンパスの空き地で野菜を栽培 それを機に、昨年5月に東京大学だめライフ愛好会を結成。「学費の元を取るためにキャンパスを有効活用する」というもくろみもあり、面白そうなことを片っ端から始めてみた。 最初に挑んだのは、空き地でのさつまいも栽培だ。無事に収穫し、焼き芋パーティーにこぎつけたものの、畑ができて半年ほどたったある日、「当局」(白川さん)こと大学の学生支援課によって畑の周りにコーン標識が設置され、締め出された。今や、畑は厳重なフェンスで囲われ、「耕作禁止」の張り紙もされているが、白川さんたちは抜け道を作り、懲りずに大根を育てている。 食料生産としては、「外来種だらけの駒場池でザリガニ釣り」企画も功を奏した。講義をサボって約1週間釣り続け、2千~3千匹ほどを確保。ザリガニの味は「エビやカニからうま味を抜いた感じ」だが、にんにくじょうゆで炒めたり紹興酒で蒸したりと、味つけ次第では伸びしろがあるという。一部はコンポストに入れて肥料にし、さつまいも畑にまいてみたが、とにかく臭いがひどく、これは失敗に終わった。 東京大学だめライフ愛好会に、正式なメンバーは存在しない。いるのは“常連”だけだ。「組織化はめんどくさい」「誰でも気軽に関われる会にしたい」という理由から、“主催さん”と呼ばれている白川さんがイベントの告知をし、その時々で集まりたい人が集まるスタイルをとっている。 ここで、世の大人たちが疑問に思うであろうことを聞いてみた。東大という日本最高峰の大学に合格する頭脳がありながら、なぜ「だめ」をライフワークに活動しているのか。白川さんに尋ねると、「コロナ禍がトリガーの一つになりました」と返ってきた。 「入学したら活発なサークル文化を楽しもうと思っていたのに失われてしまったし、不要不急の活動は許さないという空気の中、大学内が漂白されたように感じたんです。だからこそ、コロナが明けた今、猥雑(わいざつ)で無秩序なものを取り戻して、もう一度学生の居場所を作りたい。思い描いていたキャンパスライフはかなわなかったけど、自分で描き直しているところです」