年間6,000万円の損失を訴えられ…「M&A後」契約は白紙に。賠償問題となった売り手の悲劇【弁護士が解説】
事業の譲渡は多くの企業にとって一大決断であり、その過程にはさまざまなリスクが伴います。特に、債務超過の状況での売却は、買い手側にとっても大きな負担となりえます。そのため、売却後に契約不履行や不備を理由に契約解除や賠償請求を求められることは少なくありません。今回は、実際に ココナラ法律相談のオンライン無料法律相談サービス「法律Q&A」 によせられた質問をもとに、M&A後のトラブルについて、足立啓輔弁護士が詳しく解説します。 都道府県「重要犯罪認知件数/増減率」「検挙率/増減率」ランキング
M&Aの買い手が膨大な損失が出ていると主張
相談者は昨年、M&Aにより会社を売却しました。 しかし、買い手から重大な不備があるとして、賠償請求または契約解除を検討されています。譲渡金額は100万円で、契約書では賠償の上限を50%と定めています。相談者の在籍中に起きた取引先への商品不備が現在の業務に支障を来しており、年間売上に6,000万円ほどの損失が出ていると主張されています。 そこで、ココナラ法律相談「法律Q&A」に、50万円以上の賠償請求がされる可能性はあるのか、また、裁判に発展する可能性はあるのかについて相談しました。
賠償請求され、裁判へ発展する可能性も
一般論としては、50万円以上の賠償請求がされる可能性があり、それが裁判に発展する可能性もあると考えられます。 賠償額を限定する合意の有効性 私的自治ないし契約自由の原則のもと、本件のような賠償額を制限する合意も、原則として有効であると考えられます。事業者間の契約であるため、消費者契約法の適用により条項が無効となることもありません。もっとも、裁判例では、このような事業者間の免責条項・責任制限条項について、その効力、適用を否定しているものがあります。 業務・資本提携契約が問題となった東京地判平15.1.17判時1823号82頁では、 免責条項は、本件基金拠出に必要な被告の経営内容の開示が信義則に基づき透明性を確保して行われることをその前提としている としたうえで、 信義則に基づき透明性を確保して本件基金拠出に必要な被告の経営内容を開示しなかった場合には、本件免責条項は適用されない として、免責条項の適用を否定しています。本件でも、個別具体的な事情によっては、賠償額の上限についての条項の適用が否定される余地があります。 表明保証違反と損害賠償請求の可否 取引先とのトラブルや訴訟の存否については、M&Aの契約における表明保証条項(対象企業に関する財務や法務等に関する一定の事項が真実かつ正確であることを表明する条項)により、その存在について告知、説明の対象となっていることも多いです。また、本件の場合には損失額も高額であることから、事前に売主においてその事情を把握していたのであれば、買主に対し、告知、説明する義務があったと評価される可能性があります。 したがって、事情を把握をしながら事前に告知、説明をしていなかったのであれば、損害賠償責任を問われる可能性があると考えられます。