世間は実体以上に過剰反応する 経済学者の大富豪 D・リカード(上)
リカードが実践した投資の鉄則「黄金律」とは?
D・リカードの投資手法は、一種のサヤ取りである。特定の銘柄をじっと抱いて長期方針で巨利を狙うといったやり方ではなく、証券間のわずかな値ザヤの変化を素早くとらえて激しく売った・買ったとやる短期売買を旨としたのだった。 D・リカードは「株の名人」とか「自分が埋もれてしまうほどの富を得た遅咲きの天才」などと呼ばれるが、彼の投資は「黄金律」と呼ばれる1つの鉄則に基づいて行われていた。D・リカードの黄金律は明治の中ころには日本でもかなり有名になっていた。当時の百科事典にまでD・リカードの黄金律が紹介されている。明治のキーワードは「立身出世」であり、「富国強兵」「殖産興業」であったが、その背後には常に「金」が威光を放っていた。 「成功せる投機者を読者諸君に紹介せん。有名な経済学者ダビッド・リカード氏これなり。氏はロンドン株式取引所に聘馳(招待)して、巨額の財を重ねたる人なるが、その常に懐抱せる意見は『世人の事変を見ること、大いにその実に過ぐ』の言なりき」 D・リカードが口癖のように言っていた言葉を平たくいえば、「世間や市場はニュースに対して実体以上に過剰反応する」というものだ。 この黄金律にそって具体的な戦術をこう述べている。 第1章 汝の心裏にて裁択したることをちゅうちょなく決行すべし 第2章 汝の損失を短縮すべし 第3章 汝の利益を延長せしめよ 「この法章により、相場が少しく上進すべき原因を見出す時は、必ず買いに決せり。世人が狼狽して案外に騰貴せしむることを知ればなり。これに反し相場が一歩下落すれば、直ちに売りに決せり。人心恐慌して意外の下落あることを認めたればなり」 「こう」と決めたら則実行すること。そして損失はできるだけ小さく、利益はできるだけ大きくするように心掛けなければならない。これらはすべて当たり前のことだが、市場という神聖なる場所に立ち向かうとなかなか実行ができないものである。素人投資家は損失を大きくし、利益を小さく傾向がある。損が膨らむのは建玉がマイナス勘定になったとき、なかなか処分ができず、懐に抱え込んで損を太らせてしまうからだ。逆に利益を小さくするのは、うれしさの余り、早く利食い(利益確定の売り)したくなって、まだまだ伸びしろがあるというのに辛抱できず手じまいしてしまうからである。。 【連載】投資家の美学<市場経済研究所・代表取締役 鍋島高明(なべしま・たかはる)>
D・リカード( 1772-1823 )の横顔 ロンドンの巨商で株式仲買人のアブラハム・リカードの息子に生まれ、1815年、ワーテルローの戦いで英国政府の公債を大量に引き受け、ナポレオンの敗走で公債相場が暴騰し、伝説的勝利を収める。後年は経済学の研究に励み、『経済学および課税の原理』を著す。この本はアダム・スミスの『国富論』と並ぶ英国古典派経済学の名著とされる。