夫の"AIとのチャットセックス"は裏切りなのか…社会学者・山田昌弘「愛が多様化する時代の"準"浮気最前線」
■AIとの浮気は不貞行為になるのか 冒頭の「発言小町」のケースでは、夫は「チャットセックス」(サイバーセックス)までしていた。もちろん、通常のサイバーセックスと言われるものは、ネット上でリアルな相手とチャットしながら性的興奮を得るもので、現実に身体的な接触はありません。あくまで妄想上のセックスです。 ネット上であれば、相手に損害賠償を請求できるとは思えません。ましてや、この場合相手は、AIです。これが「不貞行為」として離婚原因と認められる可能性は低いでしょう。 ただ、法律では「性関係の有無」が重要ですが、事実として残るのはそれだけではありません。このケースのように、「妻である自分以外のものに性的魅力を感じ、疑似セックスまでしていた」ことは、現実の浮気と同じ。自分に対する裏切りだと感じ、ショックを受ける人もいるということです。それが人でなくAIであっても。 こうしたAIの恋人が許せないという理由は、恋人になったら自分以外の相手と親密な関係になってはいけないという「排他性規範」によるものです。これは、当人にとっては、「親密関係」の「独占権」にかかわる問題です。 ■夫婦に親密関係の独占権はあるのか 夫婦の「性関係」について独占権があることは、法律的に保証されています。配偶者以外の人とリアルにセックスすれば、それは、権利の侵害、要するに不法行為となります。 しかし、単なる親密な関係であれば、独占権は法的には保証されません。 逆に、友人などとの親密な関係を禁止するため、配偶者の行動を制限するような行為、例えば、同性異性にかかわらず友人と会うことを禁止したり、相手の行動を監視したりするような行為は、夫婦であっても、DVと認定されます。 ここで、夫婦や恋人の愛情はどうなのか。結婚する場合、結婚式の中で「あなただけを一生愛します」とお互いに誓うことが多いでしょう。口に出して言わなくても、夫婦は互いに愛情を持ち合うことが当然のことだと多くの人は思っているでしょう(たとえこれが近代社会になってもたらされたものであっても)。そして、この考え方は恋人にも準用されます。つまり、結婚や恋人になることは、「互いの親密関係を独占する契約である」という意識が根底にあるのではないでしょうか。