平手友梨奈、圧倒的なオーラを封印して挑んだ“心を閉ざした少女”役での繊細な演技
欅坂46(現・櫻坂46)の不動のエースとして、2016年にリリースされた1stシングル「サイレントマジョリティー」から2019年にリリースされた8thシングル「黒い羊」まで全シングルでセンターを務めた平手友梨奈。同グループ時代にはずば抜けた表現力を武器に、どんな人も6秒見たらトリコになってしまうような圧倒的なパフォーマンス、強烈なカリスマ性で多くのファンを魅了し、脱退後はソロアーティスト、俳優、モデルなど幅広く活躍している。俳優としての彼女は天才小説家だったり、IQ162&運動神経抜群のインフルエンサーだったり、手がかかる超エリート弁護士だったり、どこか“カリスマの香り”をまとう役のイメージが強い。それだけ欅坂46で世間に与えたインパクトが強く、“あの平手”を起用したいクリエーターが多いということだろう。そんな中、彼女が持ち前のオーラを封印して“心を閉ざした少女役”で存在感を示したのが、岡田准一主演の映画「ザ・ファブル 殺さない殺し屋」(2021年)の佐羽ヒナコ役だ。6月5日からはLeminoでも配信がスタートしたということで、本作をはじめ俳優・平手の印象的な作品を紹介する。(以下、出演作品のネタバレを含みます) 【写真】笑顔がかわいい!約3年前「ザ・ファブル―」舞台あいさつ時の平手友梨奈 ■欅坂46時代には天才小説家役で新人俳優賞 欅坂46時代から“てち”の愛称で知られ、ファンのみならず同業者にも一目置かれる存在として人気を集めた平手。同グループ在籍中に映画初出演にして初主演を務めた映画が、2018年に公開された「響 -HIBIKI-」だ。同作は、2014年よりビッグコミックスペリオール(小学館)にて連載開始と同時に人気が爆発し、映画会社・テレビ局など10社が実写化に名乗りを上げた話題作で、月川翔監督×西田征史脚本によって実写映画化された。 平手は主人公である15歳の天才高校生小説家・鮎喰(あくい)響役。圧倒的な文才を持ち、自分の信念に正直で破天荒な一面を持ち合わせる響という役を平手が務めるにあたり、原作者の柳本光晴氏は配役発表時に「『サイレントマジョリティー』のPVを見た時から、もし響が実写化するなら主演は平手さんしかいないなと思いました」と語っており、共演の北川景子も「常識を覆すほどの圧倒的な才能とオーラ、何者にも囚われない天才的な、無軌道なキャラクターの響を平手さんが演じると聞き、ピッタリだと感じました」とコメントするなど、まさにハマり役と言っていいキャラクターだった。 同作の演技が評価され、「第42回日本アカデミー賞」で新人俳優賞を受賞。平手打ちや跳び蹴りなどのシーンも記憶に残っているが、小栗旬演じた自殺を考える小説家と対峙(たいじ)し、電車が迫る線路上で「太宰(治)も言っているでしょ。小説家なら傑作1本書いて死ねって。私は死なないわよ。まだ傑作を書いた覚えはない」と表情一つ変えず、微動だにしないで言い放つシーンも、鳥肌がたつほど強烈だった。 2020年1月に欅坂46を脱退し、初の映画出演となったのが2021年1月公開の「さんかく窓の外側は夜」でのヒロイン役。平手が演じたのは、一見普通の高校生ながら心に闇を持ち、“呪いを操る”ミステリアスな雰囲気をまとったヒウラエリカ(非浦英莉可)で、物語の鍵を握るキャラクターとしてここでも存在感を見せた。 初の単独ドラマ出演となった日曜劇場「ドラゴン桜」(2021年、TBS系)では、全国トップレベルのバドミントン選手として活躍するも大きな壁にぶつかる少女・岩崎楓を演じ、同年6月に公開されたのがヒロイン役を務めた「ザ・ファブル 殺さない殺し屋」だ。 ■原作でも人気のストーリーでキーパーソンに 同作は南勝久の人気コミックを、岡田主演で実写映画化したアクションシリーズの第2弾。ボスから「1年間人を殺さず、一般人として普通に生きろ」と命じられた、“どんな相手も6秒以内に仕留める”伝説の殺し屋・ファブル(岡田)。佐藤アキラという偽名を使い、偽の妹と共に平穏な日々を過ごしていたが、ある日4年前の事件で関わった少女と再会し、後に大騒動へ発展する――という物語だ。 原作でも人気の高い「宇津帆編」を実写化したストーリーで、平手演じるヒナコはアキラがかつてターゲットを暗殺した際に不可抗力でけがをさせてしまい、車椅子生活を余儀なくされた少女だ。それから4年後、ひょんなことからヒナコと再会したアキラはさりげなく彼女を見守るようになり、ヒナコは最初不審がっていたものの、徐々にアキラに親しみを覚えるようになる。 そんな2人が言葉を交わす公園でのやりとりは、どこか“不器用な親子”を見るようなほっこりとした気分にさせられる。演じる岡田と平手の関係性について、両親を亡くしたヒナコを引き取り、育てながらある種支配してきた狡猾なキャラクター・宇津帆を演じた堤真一は「岡田くんは、(平手の)ほとんどお父さんみたいな状態だった」と当時の舞台あいさつで“証言”していた。その頃に一緒に出ていたイベントや番宣でのほほ笑ましいやりとりは今も覚えている。 信頼関係を裏付けるエピソードとして、物語の終盤にヒナコが怒りに任せて銃を撃ち、反動で後ろに倒れてアキラが支える、というシーンの逸話を一つ。誰かが支えてくれると分かっていても真後ろに倒れるのは怖いし、防衛本能で受け身をとったり、ヒザを曲げたりしてしまいそうなものだが、平手はピンと足を伸ばして立った体勢のまま真っすぐ後ろにスーッと倒れる演技を披露。 当時のイベントでこの一連の動作を岡田に褒められ、平手は「足が不自由な役だったので、(ヒザを自由に曲げるのはおかしいと)動けないだろうなと思ってそのまま倒れたのもあるし、(支える役の岡田を)信頼していたのもあるし。アクションチームの皆さんからも『岡田さんなら大丈夫なんで』と、監督からも『思いっきり遠慮なく』と言われたので」と、父のようであり、アクションの師匠でもある岡田に全幅の信頼を寄せていたことを明かしていた。 本作では、その他にも人生に対する諦めの境地、気持ち悪い大人を見る侮蔑のまなざし、宇津帆の行動に違和感を覚えながらも受け入れざるを得ない心情、アキラへの思い、“本当の敵は宇津帆”と察知して復讐(ふくしゅう)心を内に秘めた表情、そして感情を爆発させ、宇津帆に銃口を向けた時の強いまなざし…微妙な表情の変化も含めて実に繊細な演技を披露した。感受性の強い彼女らしい役への理解度がうかがえた。 ファイトコレオグラファー(アクションの振付師)も務め、常人離れしたアクションシーンを体現した岡田師範に目がいってしまうのは当然だが、この作品で見せた平手の新境地といえる演技は、深く心に刻まれるものだった。 同作以降も大ヒット韓国ドラマ「梨泰院クラス」の“ジャパン・オリジナル版”「六本木クラス」(2022年、テレビ朝日系)では、IQ162で運動神経も抜群、芸術的な才能にも恵まれた人気インフルエンサー・麻宮葵を、「うちの弁護士は手がかかる」(2023年、フジテレビ系)では最年少で司法試験に合格した超エリートなのにどこか不器用でポンコツな新人弁護士・天野杏を演じた平手。 2024年には新作RPG「星になれ ヴェーダの騎士たち」のグローバルモデルに起用され、メインテーマ「絶望の女神」の歌唱にも参加している平手。次に出会う役はどんなキャラクターなのか知る由もないが、彼女が彼女らしく自由に生きて行く世界には愛しかないはずだ。 ◆文=森井夏月