劇場アニメ「ルックバック」押山監督が語る 「絵描きやクリエイターの賛歌」に込めた想い
漫画家・藤本タツキが漫画家を描いた「漫画家モノ」としての側面を持つ「ルックバック」。そんな作品の劇場アニメ化にあたり、押山清高が監督を務めたのは必然と言えるかもしれない。『電脳コイル』で作画監督を務めたのち、『エヴァンゲリヲン新劇場版:破』や宮﨑駿監督作品『風立ちぬ』『君たちはどう生きるか』など数々のアニメ作品の原画を描いた押山は、紛れもなく「絵描き」のアニメ監督だからだ。通常のアニメと異なる「ルックバック」の制作プロセスには、絵描きとしての“共通点”、漫画とアニメの“違い”、その両方が大きく関わっていた。 押山監督による描き下ろしのイラストを使用した「Rolling Stone Japan」バックカバー ※この記事は2024年6月25日に発売された雑誌「Rolling Stone Japan vol.27」に掲載されたものです。 ・映画化をめぐる、藤本タツキとの対話 ー原作「ルックバック」はもともと読んでいましたか? 押山 はい。発表された当時に読んでいました。それ以前から『チェンソーマン』を読んでいたので「藤本さんはこんなに系統が違う作品でも才能を発揮しちゃうんだ」と、ちょっと嫉妬しました(笑)。 ーそんな『ルックバック』の映画化依頼が届き、どのように感じましたか? 押山 人気マンガ原作ということで、「原作をそのまま映像化するだけなら、モチベーションが湧かないな」と企画の話が持ち込まれた際に思いました。でも、原作では焦点が当てられていない部分にフォーカスするなど、一見原作通りに見えて実は全く違う切り口の見せ方ができるということを発見したことや、アニメーションでしか描けない作る意味などを見出した事で、「この作品に向き合う理由ができた」と感じました。そのあと、藤本さんは「好きなようにやっていいです」というスタンスだったのも後押しになりました。 ー映画の制作にあたって藤本さんとコミュニケーションはありましたか? 押山 2回打ち合わせをしました。最初にお会いしたときは、原作で解釈が分かれる部分について「藤本さんとしてはどういう結論を持って描いていますか?」とか、辻褄が合わないようなところについて「作画ミスですか? それとも意図したものですか?」といった質問を色々させてもらいました。次にお会いしたのは、絵コンテをラフに仕上げた後ですね。「この方向で絵コンテを完成まで進めていいですか?」「原作者としてこういう表現は許容できますか?」という確認をさせてもらいました。藤本さんは、「現場でそれがいいと思ったら、それでOKです」っていう感じで、とても現場をリスペクトしてくださっていました。 ー「ルックバック」は絵描きの物語であり、藤本さんと押山監督も分野は違えども同じ絵描きです。その点は映画に影響を与えたと思いますか? 押山 まず、漫画家が漫画家の話を描いている作品なので、作者自身かなり思い入れを持って描いた作品であることは想像できました。それを映像化するにあたっては、我々も絵描きなもんですから、藤本さんが原作「ルックバック」に自身を投影したように、僕も自分を投影してこの映画を作りました。その上で、これまでアニメーション表現の業界に身を置いてきた経験で見つけた価値を描きました。