J2首位独走・清水エスパルスに「戦力任せ」の死角あり 昇格争いは「四つ巴」
【ビルドアップやポゼッションを放棄】 5月18日、横浜。残念ながら、この日の清水に"強者の風体"はなかった。開始直後から、至るところでノッキングを起こしていた。特に横浜FCのカプリーニをつかまえきれず、サイドチェンジなどで起点を作られる。焦ってファウルを重ね、そこからのセットプレーで劣勢になって、必然としてCKからの一撃を押し込まれ先制されてしまった。 「前半は、横浜の出足の鋭さ、気迫に差し込まれてしまいました。相手のほうが、執念のようなものを感じました」 清水の秋葉忠宏監督はそう語っていたが、いわゆる士気の高さや強度だけの問題だったのか。後半も潰し合いになっただけで、決定機には持ち込めていない。それどころか、チームとして「ボールをつないで運ぶ」というプロセスを省いているからか、まったく形を作れなかった。 後半、乾を投入したあとは、むしろ混乱が増した。彼が中盤に落ちてボールを受け、ビルドアップしようとするが、孤立無援でボールを失う。攻撃どころではなく、むしろ逆襲を受け、最後には突き放されて、2-0と敗れることになった。8連勝を目指していたチームとしては、あまりに不甲斐ない最後だったと言える。 J2の清水は、昨年のJ1で優勝したヴィッセル神戸とも姿が重なる。戦力で他を上回るだけに、個人がタフに戦うだけでも勝ち点を稼げる。しかも、J1より明らかにミスが多いJ2では、勝ち点を計算しやすい。しかし、ビルドアップやポゼッションの形を放棄し、とにかくボールを裏に入れ、偶発的な決定機を探し求めるだけでは、得点へのアプローチの再現性のなさで混乱し、この日のような事態になるのだ。 一方で、横浜FCが画期的なサッカーをしたわけでもない。 シャドーに入ったカプリーニは左足でチャンスメイクし、中盤でユーリ・ララが積極的なミドルを放ち、センターバックのガブリエウは決勝点も叩き込むなど、攻守で高さや強さを発揮した。また、福森晃斗は左足のフィードで相手の裏を狙い、プレースキッカーとしても脅威を与えていた。要所に武器になる人材がいて、昨シーズンJ1で作り上げた守備の規範も生きていた。"弱者の兵法"で、相手のラインの裏を狙ったカウンターは、お手のものと言える。
しかし、自分たちでボールを持って、運び、相手の意表を突くようなプレーは少なかった。基本的に裏へ蹴り込むだけで、攻撃は単発の個人任せ。能動的なプレーはほとんどない。目先の勝利に満足していると、昨シーズンJ1で降格の憂き目を見たようにも......。 もっとも、清水も、横浜FCも目標は「J1昇格」だろう。その点で、両者にその戦線を勝ち抜く戦力があることは間違いない。やはり長崎、仙台を加えた"四つ巴"の争いか。 そこに割って入るような伏兵が出てきてこそ、J2全体が面白くなるはずだ。
小宮良之●文 text by Komiya Yoshiyuki