「飛行機より便利だった」福岡ー釜山を結ぶクイーンビートル撤退、日韓交流や観光へ懸念の声多数
福岡市と韓国・釜山市を結ぶ「クイーンビートル」の運航再開の断念が発表され、日韓の利用者や観光関係者らから、今後の交流や観光への悪影響を懸念する声が相次いだ。 【写真】博多港に停泊するクイーンビートル 「手続きの時間を考えると飛行機より便利だった」。釜山市で暮らす40代の日本人女性は、福岡市にある実家へ帰る際によく利用してきた。週末に気軽に行ける海外旅行先として、家族や友人もビートルでたびたび来てくれた。「時間がかかってでも、完全撤退だけは避けてほしかった」 釜山市の女性会社員(32)は、浸水を隠していたとされる今年2月にも乗船した。それが8月に発覚し、「日本はさまざまな面で安全だという信頼が崩れた」。持ち込み制限などが航空便ほど厳しくない高速船の利用しやすさを気に入っていた。「福岡で買ったケーキを船内へ持ち込み、友人と一緒に頰張った旅もあった」と寂しがった。 「東京や大阪行きの航空券が高く、福岡に行く韓国人が増えたこの時期に、残念だ」と言うのは同市の大学生の男性(25)。福岡と釜山間は現在、エアプサンなど格安航空会社(LCC)も参入しているが、高速船の撤退で両市を結ぶ船便はフェリー1択となる。 多くの高校生が犠牲になった2014年のセウォル号沈没事故を受け、韓国人は船舶の安全運航には特に敏感だ。フェリーだとより時間がかかるが、「安全が最優先。無理な運航よりましだ」と受け止めた。 日韓交流に長年尽力してきた福岡県日韓親善協会の村井正隆副会長(80)は、試乗会でクイーンビートルに乗って以来、よく使ってきた。「民間レベルでの交流の足として、長く携わってきたJR九州の貢献は大きかった。それだけに、撤退は残念の極みだ」と話した。再開断念について、「大局的に考えるとやむを得ない判断だが、関係者は無念だったろう」と思いやった。 ◆ ◆ 釜山観光公社(釜山市)によると、釜山港から入国した日本人観光客数は今年、クイーンビートルが長期間運休してきた影響で前年(11万6916人)から4万~5万人減る見通しだ。 外国人観光客の誘致を目指す同公社としては、時期と時間により運賃が変動する航空便と比べ、船会社の方が商品開発や販売促進がしやすい面もあった。同公社は「JR九州は釜山へ観光客を送り出そうという意欲があった。撤退により、重要なパートナーを失ってしまう」と嘆く。 親善交流などで日韓を行き来する団体客にも重宝されてきた。運航するJR九州高速船とパートナー契約を結び、学生の派遣などで年数回利用していた福岡県内の市民団体の担当者は、「二人三脚で日韓交流に取り組んできたようなもので、撤退は率直に悲しい。交流事業が途絶えないように続けていきたい」と語った。 LCCの増加で高速船も厳しい競争にさらされてきたが、日本資本のホテルなどでも、今年はクイーンビートルの運休で予約のキャンセル対応などに追われた。ある支配人は取材に「日系ホテルとしても、残念と言うほかない」と惜しんだ。 韓国の政府関係者は「30年以上、運航を続けてもらっただけに、残念だ。韓国側の企業が事業を引き継ぐようなことは聞いていない」と話した。 (平山成美=釜山、木村知寛)