相次ぐJAL機長の飲酒問題で矢面に…鳥取美津子CA出身社長に問われる手腕(小林佳樹)
【経済ニュースの核心】 日本航空(JAL)は12月10日、機長2人(59歳男性、56歳男性)による過度な飲酒が原因で、1日のオーストラリア・メルボルン空港発成田国際空港行きの便で3時間以上の遅れが生じたと発表した。103人の乗客に影響が出た。 【写真】事故原因と対応を総括 本紙カメラマン「奇跡の脱出」一部始終とその教訓 運航当日、機長のうち一人は体調不良を訴え、出勤時間を1時間遅らせた。もう一人の機長は時間通りに出勤したものの、検査で基準を上回るアルコールが検出された。これらの要因で飛行機の出発を遅らせていたものの、その時点で機長2人の過度な飲酒をJALは認識していなかった。 機長2人は滞在先でスパークリングワイン2杯、ボトルワイン3本を注文したという。JALは社内規定で、飛行勤務開始時に酒気帯びとならないよう飛行開始12時間前に体内に残存するアルコール量を4ドリンク相当以下に自己を制限するよう定めている。 乗務前の検査でアルコールが検出された機長は当初、検査結果について「誤検知だ」と主張。機長は飲酒の事実をその時は明かさず、結果として隠蔽する形となっていた。JALはパイロットのステイ先での飲酒を今年4月26日から禁じていたが、10月1日に解除したばかりだった。 JALは、4月にも、深酔いした機長1人がステイ先の米ダラスで騒ぎ、欠航するなど安全上のトラブルが相次いだため、5月に国土交通省から行政指導にあたる「厳重注意」を受けている。こうしたトラブルで矢面に立たされているのは、4月1日に新社長に就任したばかりの鳥取三津子氏だ。 ■入社年に日航ジャンボ機墜落事故が発生 鳥取氏は福岡県出身で、長崎県の活水女子短大英文科を卒業し、1985年にJASの前身・東亜国内航空(現JAL)へ入社した。キャビンアテンダント(CA)を長く務め、執行役員客室本部長、常務・専務を経て、グループCCO(最高顧客責任者)を務めた。「活水女子短大は2005年に廃校になりましたが、地元では有名な“お嬢さま学校”。規律も厳しくジーンズでの登校や喫煙も禁止されていたほど」(福岡県の企業経営者)という。鳥取氏はバレーボール部に所属するスポーツレディーでもあった。 また、鳥取氏が入社した年には、日航ジャンボ機が群馬県の御巣鷹山に墜落し、520人が犠牲になる大事故が発生した。鳥取氏は、「当時、受けた衝撃は今も大変強く心に刻まれている。安全運航の大切さを次世代に継承していく、そういった強い責任感を今も持っている」と就任会見で強調した。安全運航と顧客重視の経営が鳥取氏の背中を押したことは確かだ。 JALは2010年の会社更生法適用申請にはじまり、コロナ禍による需要急減と、数々の試練に立たされてきた。その都度、不死鳥のように蘇った原動力は「現場力」だった。コロナ禍で落ち込んだ業績も需要回復からV字回復し、24年3月期は純利益が前期比2.8倍の955億3400万円に伸長した。 しかし、ライバルの全日本空輸(ANA)に収益面では後塵を拝している。ガラスの天井を破った鳥取氏は、思わぬ身内の飲酒問題にどう対処するのか。CA出身だから操縦士には物が言えないでは収まらない。 (小林佳樹/金融ジャーナリスト)