名字を変えたい・変えたくない、思いは人それぞれ…多様性の時代に、国会では依然議論が深まらず
鹿児島市に住む男性(66)は今春、27年連れ添うパートナーと婚姻届を出し、妻の姓に改姓した。「夫婦も個人と個人。それぞれの選択が尊重される制度が整えばと考えていたが、いつになるか分からないと思った」 互いに自営業で、名前が仕事の「看板」だったため自然と事実婚に落ち着いた。2人で暮らして四半世紀。不便はなかったが、新型コロナウイルス禍が転機になった。医療に関する意思決定や入院時の面会、相続…。「自分の身に何か起きた時、法的なつながりがないために困ることが出てくるのでは」と考えるようになった。 1回り年下で、この先も長く仕事をする妻を思って姓を変えた。「妻の姓で呼ばれるのにはまだ慣れないが、変わらず楽しく暮らしている」と笑う。ただ、改姓に伴う手続きは想像以上に大変だった。マイナンバーカードや運転免許証の名称変更に始まり、個人事業主のため法務局や労働基準監督署にも出向いた。2週間かけても終わらなかった。
■ ■ ■ 現在の民法は夫婦同姓を義務づけており、9割超が夫の姓を名乗る。国連の女性差別撤廃委員会からこれまで3回、夫婦が望めばそれぞれ結婚前の姓を使える選択的夫婦別姓制度導入を勧告されている。 経団連は6月、早期実現を求める提言を発表。共同通信社が今夏、全国の都道府県知事と市町村長に行ったアンケートでも容認する回答が78%に上った。鹿児島県内も77%が賛成の立場を示す。 制度に対する理解は広がっているようだ。鹿児島市の専門学校に通う女子学生(20)は「名字が変わると仕事面は大変なこともありそう。ただ変わるのが楽しみな人もいると思う。選択できればいい」と話す。専門学校に通う男子学生(19)=霧島市=も「多様性の時代。夫婦で名字が違っても気にしない」。子育てを終えた同市の女性(61)は「血のつながりや名字だけが、家族をつくる訳ではない」として賛成する。 心配を抱く人もいる。出水市の男性(81)は、別姓を希望する人を否定するつもりはないとしつつ、「子どもを中心に考えると、親子の名字が違うと戸惑いや負担が生まれるのでは」と明かす。