テイト・マクレーの理想的な初来日公演 スポーティでエネルギッシュな一夜
最新作の2ndアルバム『THINK LATER』の大規模ワールドツアーの一環としてテイト・マクレー(Tate McRae)が10月29日に初来日した。会場である東京・豊洲PITは、秋雨に見舞われる中やってきた熱量高めのファンで埋め尽くされた。 【画像を見る】ローリングストーン誌が選ぶ「歴代最高の500曲」 カナダのカルガリー出身の21歳、テイト・マクレーの初来日公演はとにかくスポーティでエネルギッシュな一夜だった。テイト本人はもちろん演出も演奏もパワフルで、オーディエンスの盛り上がりも常に最高潮。まだ持ち曲が少なく70分と短い公演時間ながらも、ファンとのコミュニケーションも密に行う理想的な初来日ショーだったと言えるだろう。 オープニングは開演予定時間を15分ほど過ぎた頃。大音量でリアーナの「Bitch Better Have My Money」が会場に轟く。そして再び訪れた静けさの後、アルバム表題曲の「think later」のビートが鳴り響き、青い衣装に身を包んだテイトが登場。屈強なダンサーたちを引き連れて立つその姿は堂々たるものだ。 続く「hurt my feelings」では、テイトがステージの両端まで歩く度に近くの観客が大歓声を上げ、「叫ぶ準備はできてる?」とテイトが問うと耳が痛くなりそうなほどの絶叫が会場を包む。とにかく歓声が凄まじく、それはテイトの柔軟に伸びる四肢から発散するエネルギーに全力で応えるようだった。 ステージに腰を下ろしたテイトが、「マーチを手に入れてくれてありがとう! みんなとても可愛い」と笑顔で言うと、「私の出身地についての歌で、アルバムの中でもお気に入りの曲」と前置きしてから「calgary」をアコースティックギターの演奏に合わせて繊細に歌声を届けた。 そして、「みんなは何度も繰り返し引っかかってしまう人がいた経験はある? それは最悪の気分だよね。そのことについて書いた曲」と曲の背景を話してから「stay done」へ。観客はスマホのライトで会場を照らし、ドリーミーな雰囲気の曲に幻想的な風景を添えた。 その空気を切り裂くように一転してロックなアレンジで披露されたのが「cut my hair」だ。テイトがアーティストとして改めて生まれ変わろうとする力強さがよく表れた楽曲で、アルバムの冒頭を飾る重要な1曲でもある。“I can do it better”と言い切る部分ではオーディエンスも声を合わせた。 この日のテイトはとにかくMCも多く、積極的にファンとコミュニケーションを取ろうとしていた。「日本語でI Love Youって何て言うの?」からの「愛してる東京!!!」だったり、逆にファンから寄せ書き風にメッセージをあしらった日本国旗をプレゼントされて受け取ったり。初めての日本を積極的に楽しんでいる様子だった。そんなあたたかい空気の中でヒット曲「exes」に突入。この日一番の重低音で繰り出されるリズムに身を揺らす。コールアンドレスポンスの練習をしてから始まった「guilty conscience」でさらに会場が一体となっていく。そこから突っ込んでいった「she’s all i wanna be」はポップロック調のドラムとギターに加えて観客を煽るテイトのかけ声も相まってまるで夏のロックフェスのような雰囲気に包まれた。 テイトがステージの右端から左端までファンとの距離を縮めるように歩くと、ファンはテイトが近づいて来るたびに大歓声を巻き起こしていた。中でもこの日最もオーディエンスを驚かせたのは「grave」のときだ。その前の「run for the hills」でやけに長いアウトロのギターソロが終わると、なんと会場の最も後ろに位置するPAブースの中に立っていたのだ! その日たまたま最後列のド真ん中でライブに参加していた私からすれば、最も遠くにいた人がいきなり目の前に現れたのだから目玉が飛び出るほど驚いた。思えば数曲前からスタッフがざわざわしていた。 騒然とする中でテイトは静かに語り始めた。「ある人との関係に決着をつけられないような気がしていて、その人を愛したり憎んだりする歌をずっと書き続けてきたの。本当に手放すことができなかったけど、この曲を書いて初めて、本当に終わったと感じられました。一緒に歌いましょう」と言って歌われたのが「grave」だ。ここまでテイトは激しいダンスで魅了してきたが、実はその歌声は繊細なのだ。 続いて「今何時?」と問いかけるテイト。理解のあるファンたちが口々に“例の時刻”を叫ぶと、ティエストとのコラボ曲「10:35」のビートが鳴り響く。そのままステージへと戻り同曲を披露した後は新曲の「It’s ok I’m ok」になだれ込み、最後は昨年のメガヒットで代表曲の「greedy」だ。 テイト・マクレーは元はといえば「カナダのビリー・アイリッシュ」的な売り出し方や扱いをされてきたが、「greedy」で大きくスポーティな路線に転換したことで明確に個性が表れたように思う。もはやアーティストというよりアスリートと言った方が適切なのではないかと思えるほどキレキレのステージだった。そんなテイトの新たな節目でもあるこのタイミングで観ることができたのは間違いなく幸運だったと言えるだろう。
Shunichi MOCOMI