倫理資本主義の下でビジネスは成り立つのか? エシックス(倫理)と資本主義を考える(2)
ガブリエル:そのとおりです。資本主義について私が開眼した瞬間は、あるスイス人の同僚から、資本主義はシステムではないかもしれないと指摘されたときです。 誰もが資本主義は経済システムだと言っているのに、どういう意味なのかと聞き直すと、「シュンペーターを読みなさい」と言われました。それで彼の大著『資本主義・社会主義・民主主義』に立ち返ったのです。 名和:彼の最後の著作ですね。お話を聞きながら、私もそれが頭に浮かびました。
ガブリエル:皮肉にも、資本主義には未来がないといった有名な言葉が出てきますよね。彼が言おうとしているのは、資本主義は1つのシステムとしては存在しないことだと思います。 その意味で、資本主義には未来がない。資本主義がすることとして、創造的破壊という彼が提唱した概念は有名です。創造的破壊、つまり、イノベーションのことですが、単に何かを破壊することではなく、そこで実際に破壊するのは、過去の問題解決手法です。
創造的破壊は学習と呼んでもよいのでしょう。学習の定義は、ある問題を別の問題に置き換えることです。学習は問題の最終的な解決策ではなく、学んでいくうちにまた別の問題を解く必要が出てきます。近代は学習と創造的破壊のプロセスと言えます。18世紀と19世紀の資本主義は工場の世界観でしたが、そうした過去の工場としての資本主義を破壊する。それが創造的破壊です。 名和:資本家が工場を設立して商業を発達させた時代の資本主義の後に、それらの旧来秩序を創造的に破壊して、学習を通じた動的な資本主義が主流となる。そこでの判断軸として改めて問われるのが倫理です。だから、「倫理資本主義の時代」と呼ぶのですね。
■真の利益は社会善を増進する 名和:先ほど利益の話がありましたが、オックスフォード大学のコリン・メイヤー教授は利益の概念を再定義しなければならないと言います。「真の利益(just profit)」についてどう考えますか。 ガブリエル:メイヤー教授は『Capitalism and Crises(資本主義と危機)』の冒頭で、profitの語源のラテン語には「自分の存在にとって有益なもの」という意味があったことに言及しています。