倫理資本主義の下でビジネスは成り立つのか? エシックス(倫理)と資本主義を考える(2)
ここで経済とつながってきます。経済的な手段によって人間の置かれている状態が向上し、よりよく生きられるならば、より多くの持続可能な利益が得られます。倫理を本当に理解すれば、経済の本質がわかってきます。 どういうわけか、倫理や道徳が経済活動を制約するという昔ながらの考え方は、いまだにあります。市場は市場で、企業は企業で、本分を果たせという考えです。周辺には「あなたがすべきことには限界がある」という批評家のような人たちもいます。
これはいわば、ある種のダウンレギュレーション(下方制御)です。私の考える倫理資本主義はアップレギュレーション(上方制御)です。 ■倫理的な行動は収益源になるのか? 名和:規制というと、ある行動を禁じるダウンレギュレーションがすぐに思い浮かびますが、よりよい行動を促進するアップレギュレーションだというのは、興味深いですね。倫理的な行動はビジネスではコスト増につながりそうですが、収益源となるのでしょうか。
ガブリエル:倫理資本主義では、経済に関連する事実を突き止められるようになるので、たとえば、エネルギー問題を解決した人はきっと大金持ちになるでしょう。 イーロン・マスクは善人でないかもしれませんが、経済的に成功している理由の1つは、とりあえずEV(電気自動車)という倫理的製品を見出したからです。EVは完璧ではないし、マスクは経済の神や仏でもありません。けれども、倫理的な解決策を見つけたから大きな利益を手にしました。
彼の意図は、単に儲けることにあったかもしれませんが、彼の初期のプロダクト(ペイパル)でさえ、決済をシームレスにするなど倫理的側面があったから、あれだけ急成長を遂げたのです。こうしたメカニズムが倫理資本主義の中心にあります。 ■過去の資本主義を創造的に破壊する 名和:資本主義はイノベーションの原動力になります。ガブリエルさんはケインズよりも、ヨーゼフ・シュンペーターがお好きなのですね。このドイツの哲学者、社会思想家とでも呼ぶべき人物をどう思っていらっしゃいますか。シュンペーターの説くイノベーションを再評価すべきでしょうか。