社説:日本学術会議 独立保つ組織へ対話尽くせ
「国の特別機関」である日本学術会議の在り方を検討してきた内閣府の有識者懇談会が、政府方針である新法人への移行に沿った報告書をまとめた。 首相による会員の任命をなくす一方、活動状況を確認する評価委員会や監事の任命への関与を盛り込んだ。 時の政権の意向に左右されない独立性、公正さを保てるのか。根深い疑念を残さないよう議論を尽くさねばならない。 報告書は、学術会議を国から切り離して法人化するとともに、国に助言する権限や国の財政支援を保障するとした。 活動や運営を国民に説明する仕組みが必要とし、財政基盤の多様化に取り組むことも求めた。 政府は、報告書をもとに、来年の国会で関連法案を提出する構えだ。 国費を用いて公的機能を担う役割は維持される。構成員や運営の透明性、科学的見識からの助言機能の強化が求められることは当然だ。 懸念が拭えないのは、独立性である。 会員選定では、これまで通り研究者による互選を維持するが、形式的な首相による任命をなくす。一方で、客観性を高めるためとして、外部有識者からなる「選考助言委員会」を設け、投票制の導入も掲げた。 評価委員会と2人の監事を首相が任命するとしたことと併せ、政権の恣意(しい)的な介入につながらないだろうか。 そもそも、この問題は2020年、当時の菅義偉首相が理由も説明しないまま、新会員候補6人の任命を拒否したことに始まる。 自民党内では、学術会議が過去の戦争協力への自省から軍事防衛研究に反対していることに不満が高まっていた。 意に沿わない学術会議に対し、人事や運営へ介入して統制しようとする意図は明らかだろう。 岸田文雄前首相も任命拒否を見直さず、昨年4月、会員選考に第三者を関与させる改正案を提出しようとしたが、学術会議の強い反対を受けて断念した。 いまだ政府は、強行した任命拒否について説明責任を果たしていない。それを組織の見直しへ議論をすり替える姿勢が、不信感の根元にある。 昨年成立させた改正国立大学法人法も、文部科学相が承認した委員が大学経営の中枢に関わる内容で、介入の余地が増え、学術界は警戒を強めている。 学術会議は22日に総会を開き、協議する。 高度な知見と自由で忖度(そんたく)のない直言こそ、社会課題を解決し、国の針路を誤らせないために不可欠だ。任命拒否の撤回を手始めに、学術会議と政府の直接の対話でこじれた糸をほどき、組織や活動の改革に向けた合意点を見いだしてほしい。