伝統の「博多張子」に新しい風 ちっちゃい!カラフル!が人気に/福岡市
博多の祭りに欠かせない縁起物で、福岡県知事指定特産工芸品の「博多張子」。これまでなかったカラフルなデザインや、小さなサイズが福岡を訪れた国内外の観光客らに注目され、令和の今、伝統の世界が新たな可能性を広げている。 【写真】広がる可能性
未知の世界へ義父に弟子入り
博多張子は、型に和紙や新聞紙を貼り合わせて乾燥させ、型を抜き取ったものに色付けする。江戸時代中期に、博多の商人が上方(大阪)から持ち帰った技法がルーツとされ、博多の祭りや風習と結び付き、様々な張子が作られてきた。
毎年1月に開かれる十日恵比須では飾りの鯛(たい)などで、5月の博多どんたくでは「博多にわか」の様々なお面で登場。ほかに、端午の節句の「首振り虎」、厄を払う「姫だるま」などで知られる。それぞれに愛らしさがあり、見る人を笑顔にする。
地域の歴史とともに歩み、縁起物や玩具として親しまれてきた博多張子だが、近年は手のひらサイズのかわいいものや、色彩豊かなものが好まれているという。
伝統の世界に新しい風を吹き込んでいるのは三浦智子さん(38)だ。博多張子職人の5代目・三浦隆さん(73)の次男の妻で、3年前に弟子入りした。 博多張子に携わる前は、事務の仕事をしていた智子さん。育児などのために退職することを義母に伝えようと電話した際、義母が末期がんの宣告を受けたことを知らされ、「闘病生活に入るから、夫を手伝えるか不安」と打ち明けられた。 伝統工芸にも博多張子にも関心がなかった智子さんだが、夫の実家の手伝いと看病を兼ね、福岡県大刀洗町の自宅から福岡市南区にある工房へ通う生活が始まった。
義父の隣で紙の貼り合わせ方などを教わりながら、仕事を手伝っているうちに、張子の奥深さに引き込まれていったという。「数をこなさないと一人前になれないよ」とアドバイスを受け、自宅でも育児や家事の合間を縫って経験を積んだ。 義母は、あの電話の半年後に亡くなった。智子さんは何かに導かれるように、博多張子の制作に一層の情熱を傾けるようになった。