思わず目を覆いたくなった…窪田正孝”藤竹”から余裕が失われたワケ。NHKドラマ『宙わたる教室』第8話考察レビュー
大人たちの不安が的中…。
しかし、この状況を、長嶺(イッセー尾形)や養護教諭の佐久間(木村文乃)は危機感を持って見ていた。 その予感が的中するかのように、岳人を打ち砕かんとする出来事が立て続けに起きてしまう。孔太がついに実力行使に出て、科学部が使っている物理準備室をめちゃくちゃにしたのだ。なんの躊躇いもなく、人がつくったものをこんなにも簡単に踏みにじることができる人間がいることに目を覆いたくなる。 その場にいなかった岳人は怒り心頭で、なぜ自分を呼ばなかったのかとアンジェラ(ガウ)に問いかけるが、ケンカはダメと制止する声を受けて、一旦は溜飲を下げる。 しかし、装置が壊されたことによる実験の遅れに、岳人は焦っていた。きっと自分のことも相当追い込んでいたのだろうと思うが、周囲にも長時間の作業をさせてしまったことで、ついにアンジェラが怪我をする事態に。 最初は長嶺も、まずはアンジェラの心配をしろとたしなめていたが、苛立つばかりの岳人についに怒りを露わにした。「過去はなかったことにはならん」という言葉に、岳人が深く傷ついた顔をしたように感じた。 自分は頑張っている、なのに、かつての仲間に足を引っ張られる。自業自得とは言いたくないが、これは岳人の努力とは無関係につきまとってくる。どんなに悔しいか、もどかしいか。想像すると胸が痛んだ。
空中分解寸前となってしまった科学部
この一件により、空中分解寸前となってしまった科学部。1人実験を続ける岳人は、諦めることには慣れていたつもりだったけど、頑張ったことを諦めるのは辛い、と藤竹に吐露する。子どもの頃、諦めることが辛くなって頑張ること自体を辞めた岳人が、いま一度頑張った。 でも、また諦めなければいけないかもしれない状況に直面している。子どもの頃の傷も深く残っているだろうが、大人になってから当時の痛みも思い出して負う新しい傷は、きっとまた違う痛みを伴う。 さらに岳人は、「あんたみたいになれんじゃねぇか」と夢を見ていたと続ける。藤竹にとって伊之瀬(長谷川初範)がそうであったように、岳人にとって藤竹もまた“その後の人生を変える恩師”になっていた。このときの藤竹のハッとするような表情は、そのことにまだ気づいていなかったと言わんばかりだ。 「辞めるつもりですか? 実験」と問いかける藤竹の声には、いつもの穏やかさはなかった。怒っているわけではなく、余裕がなくなっているんだろう。生徒の人生を良くも悪くも変えてしまう可能性がある教師という仕事の重圧を、初めてきちんと認識した瞬間だったのかもしれない。 メテオライトは、特に「大気圏を通っても燃え尽きなかった隕石」を指す場合もあるという。岳人の、そして科学部の学会発表への思いの火が、このまま燃え尽きないといいのだが。 【著者プロフィール:あまのさき】 アパレル、広告代理店、エンタメ雑誌の編集などを経験。ドラマや邦画、旅行、スポーツが好き。
あまのさき