しかし、ある高齢者の集いで、参加者から「認知症の話をされると場が暗くなる」と非難された。かたやどう予防できるかには質問が相次ぐ。「私だけは認知症にならない、なった人とは違う」という気持ちが、見え隠れするという。 　増本さんが認知症のケアに携わった期間は、04年に京都会議が開催されて以降の20年間にほぼ重なる。この間、高齢の独り暮らしや夫妻のみの世帯が増えた。猛暑下で体調悪化に気付けずに自宅で孤独死したり、夫妻とも認知症がある「認認介護」世帯が地域から取り残されたりする現場を数多く見てきた。 　「私だけは違う」と目を背ける風潮があるから、人ごとと捉えるから、自分が認知症になっても受け入れられないまま症状を悪化させ、家族や近所の人は認知症の人を遠ざけようとする。確かに20年前より認知症の人を支える仕組みは整ったが、本人の気持ちを考えず、一方的な押し付けになってはいないか。そんな疑問が拭えないという。 　「この20年間でいったいどれだけ認知症への意識が変わったのか。越智さんの言葉を人ごとでなく、『私の未来かもしれない』と想像力を働かせて受け止めるべきだ」。そう増本さんは呼びかけている。