ハーバード大、黒部を研究 9月から、地方活性化の教材に 豊富な水資源、自然と共生を実地調査
●YKK APが支援 世界的な建築家や都市計画の専門家を輩出している米ハーバード大デザイン大学院(GSD)が9月、黒部市の研究をスタートさせる。市内に生産拠点を置く建材大手YKK AP(東京)のサポートで、黒部川扇状地が生み出す豊富な水資源をはじめ、自然と共生する産業や農業、まちづくりを実地調査する。豊かな自然の下で育まれた地域の営みが、地方都市の活性化や環境問題を多角的に学ぶ「生きた教材」になる。 【写真】自然エネルギーを活用した街「パッシブタウン」(YKK AP提供) GSDは来年1月にかけて研究に取り組む予定で、手始めに教員2人と学生12人が9月下旬から10月上旬まで黒部に滞在する。黒部川扇状地を調査し、YKKが市内で整備する自然エネルギーを活用した街「パッシブタウン」などを視察する。YKK APの社員8人が活動をサポートし、研究に関するさまざまな情報を提供する。 実地調査の後、ハーバード大のキャンパスがある米マサチューセッツ州ケンブリッジで中間報告会や最終発表会を開き、研究の成果を披露する。YKK APの社員は資料作成を手伝うほか、報告会や発表会にも参加する。GSDは来年8月から、京都議定書の誕生の地である京都でも実地研究に取り組む。 GSDは黒部が自然に恵まれ、企業活動や農業の調査が可能で、環境に配慮したパッシブタウンが整備されていることから研究対象に決めた。パッシブタウンの基本計画策定を担った宮城俊作氏がGSDの客員教授を務めている縁から、YKK APがサポートする運びとなった。5月に堀秀充会長が渡米し、GSDと研究支援に関して調印した。 YKK APは研究支援を通してGSDと接点を構築し、世界的な教育機関の課題解決の手法を学ぶ。社内の人材育成に役立てるとともに、研究や技術開発への応用も目指す。 研究支援の責任者を務めるYKK AP技術研究本部の八木繁和顧問は「黒部の魅力やパッシブタウンの成果を世界に発信したい」と意欲を示す。社員がGSDの学生をサポートすることに対し、広報担当者は「米国の大学が重視するディベート(議論)に触れることで、日本のあうんの呼吸とは違った関係づくりを学ぶことができるのではないか」と期待した。 ★黒部川扇状地 3千メートル級の北アルプスから黒部峡谷を駆け下る世界でも有数の急流な河川によってつくられた。扇頂から扇端までの距離は13・5キロ。扇状地としては国内では有数の広さを誇る。扇状地に蓄えられた豊富な地下水は伏流水となって湧き出し、人々の暮らしを潤している。 ★パッシブタウン YKKが黒部市三日市の社宅跡約3万6千平方メートルで整備を進める。風や地下水など自然エネルギーを最大限に活用するのが特徴。2015年の北陸新幹線開業を機に、グループの本社機能の一部を黒部に移転したのに合わせて整備した。これまでに集合住宅の第1~3街区、保育施設の第4街区が完成。現在は最終の第5街区を整備中で、2025年3月に北陸初の木造中高層住宅3棟が完成する予定。