医療の「エビデンス」とはそもそも何なのか? 適切な医療や健康情報を手に入れ、活用するために必要なヘルスリテラシーとは
〈エビデンスレベル1〉
「システマティックレビュー(系統的レビュー)」と「メタアナリシス(メタ解析)」。 ひとつのテーマに対して、世界中で複数のランダム化比較試験が行われています。しかし、それらの結果は必ずしも一致していません。たとえばある薬の有効性に関して、A大学での研究では有効で、B大学の研究では無効といった結果になることもあります。これでは、どうしていいか答えが出ません。 そこで一定の基準を用いて、同じテーマの研究を徹底的に探し出して系統的に批評や再検討する「システマティックレビュー」や、さらに、個々の研究の結果を統計学的な手法で合体させ、数値で表す「メタアナリシス」という方法によって結果を得ます。それがエビデンスの信頼性がもっとも高いレベル1です。 ある治療法が開発されたとします。そうすると、世界中でその治療法についてのさまざまな臨床研究が行われます。そしてそれらから無数のエビデンスが得られます。 では、どういう状態になればもっとも信頼できるのかと問われると、レベル2のランダム化比較試験が複数実施されて、それらを統合したシステマティックレビューやメタアナリシスが行われ、その結果が得られていること、と言えます。それゆえに、この結果がレベル1となるのです(図9)。
レベルが高いから正しいのか?
ただし、エビデンスレベル1の情報であっても、さらに新しい別のランダム化比較試験の結果が出ると、それを含めて研究を更新する必要があります。システマティックレビューやメタアナリシスの結果にも「賞味期限」があり、将来にわたってそのエビデンスが正しいことを保証するものではありません。 重要な考えなのでくり返しますが、「エビデンスレベル1であっても絶対的にそれが真実だと保証できるものではない」ということも頭に入れておきましょう。 ここまでみてきたように、エビデンスのレベルは、研究デザインの正確さの順番に6つに分類されてはいますが、レベルが高いから正しい、あるいは、低いから間違っている、ということを示すものではありません。 *1 Guyatt GH. Evidence-Based Medicine [editorial]. ACP Journal Club. 1991:A-16. (Annals of Internal Medicine; vol. 114, suppl. 2). 写真/shutterstock
---------- 田近亜蘭(たぢか あらん) 1972年大阪市生まれ。京都大学大学院医学研究科健康増進・行動学分野准教授。医学博士。精神科指導医・専門医。精神保健指定医。京都大学大学院医学研究科博士課程医学専攻修了。関西医科大学精神神経科・医局長、京都大学医学部附属病院精神科神経科外来医長などを歴任。『日本うつ病学会診療ガイドライン双極性障害(双極症)2023』『統合失調症薬物治療ガイドライン2022』ともに作成委員。 ----------
田近亜蘭