難関試験を突破したはずが…新入社員と企業側の「ミスマッチ」はなぜ生じるのか
<「入社前と話が違う」 退職代行サービスに新入社員から依頼相次ぐ> 14日付の毎日新聞は、新年度が始まって10日余りにもかかわらず、新入社員本人に代わって企業側と退職について交渉する「退職代行」サービスの依頼が相次いでいるという状況を報じていた。 NHKドラマ「わたしの一番最悪なともだち」で描かれる現代の就職活動の過酷さ(2023年) 記事では「入社前と話が違うのですが……」と切り出す新入社員が多いと書いていたが、なぜ、こうしたミスマッチが生まれるのか。 バブル期入社の“働かないおじさん”世代には理解できないだろうが、今の新卒採用の試験はとにかく複雑でハードルが高い。大卒の場合、早い会社では3年夏から「説明会」という名のエントリーが始まり、学生は就職を希望する企業に志望動機やガクチカ(学生時代に力を入れた事)などを書いたエントリーシート(ES)を提出。それが通ると「替え玉受験」で問題となったウェブテストなどを受けるのだが、このテストは単なる性格テストだけではない。 中学や高校受験レベルの数学や空間図形、文章題、知能テストなどが短時間のうちに次々と出題され、正答率だけでなく、解く時間なども重視されるという。そして、それが通るとようやく、グループ面接(いわゆるグルディス)に進むのだ。 そして、主に大学4年時から本格化するグループ面接では、グループごとに議論するテーマ、参加者ごとに進行の役割がそれぞれ与えられ、その様子を採用担当者などが見て、参加者一人一人について「積極的に発言しているか」「周囲の人の意見もよく聞いているのか」「臨機応変に対応しているのか」などを判断。そして、1つのグループで1~2人ずつ通過者が選ばれ、そこでようやく、1次面接、2次面接と進み、最終面接に至る流れだ。 もちろん企業規模にもよるのだが、今の多くの学生は大なり小なり、こうした二重三重の厳しい入社試験を潜り抜けて就職している。それなのになぜ「話が違う」となるのか。 ■採用試験が厳しい余り、学生は企業側が求める人材の姿に自分を合わせている 今春から大手金融機関で働く鈴木祐樹さん(仮名・23)は「ミスマッチは仕方がない」と言い、こう続ける。 「学生時代は内定がほしくて、つい自分の本当の姿を偽ってしまうんです。とにかく採用試験が厳しいですから。ガクチカでは、ウケそうな事ばかり狙って脚色したり、グルディスでは協調性ありますよとアピールしたり。企業側もこういう人がほしいと考えて様々なハードルを課しているのでしょうが、結局、学生が求められている人材の姿に自分をムリヤリ合わせているだけ。パリピ(明るい人)じゃないのに、陰キャと思われるのが嫌でパリピを装ったり…。でも、入社後は本当のありのままの自分ですから、こんなはずではなかったと思ってしまうのもある意味、無理はないでしょう」 つまり、新入社員は会社が求める理想像を“演じて”採用試験を突破してきたため、ミスマッチが生じてしまうというわけだが、これは多額のコストと時間を費やして採用活動を行っている企業にとっても不幸な話だ。企業側はこうした齟齬をどう解消しようとしているのか。 大手デベロッパーの50代の採用担当者がこう言う。 「うちの会社では、内々定を出した時から、3週間から1カ月に1度くらいの割合で学生に連絡して食事会をしています。その席で、若手社員が学生に『本当はどう思っているのか』『入社後の不安は』などと、採用面接などで聞けなかった本音を聞いている。多くはカネと休日ですが(笑)。つまり『話が違う』という材料を入社前に潰す努力をしています。今の学生は昔と違って真面目だから、納得すれば懸命にやるが、納得しないことはやらないし、すぐリセットしようとする傾向もある。『これがうちの伝統だ』とか『とにかくヤレ』は即アウト。当たり前ですが、丁寧な説明が大事だと思います」 間もなくゴールデンウィーク(GW)。難関試験を受けて入社した若者が、GW明けに無気力状態になる「5月病」にならないよう願うばかりだ。