グーグルの量子コンピューターチップ「ウィロー」が、「大きな前進」である理由(海外)
グーグルは12月9日、量子コンピューティング分野におけるマイルストーンとなる「ウィロー」チップを発表した。 この進歩を、モバイルネットワークにおける1Gから2Gへの飛躍に例える研究者もいる。 ただし、このニュースが大きな前進を意味する一方で、現実世界で応用できるようになるにはまだ数年を要すると見られている。 グーグル(Google)が2024年12月9日に発表した最新の量子チップ「ウィロー(Willow)」が、近いうちに消費者向け製品に登場する可能性は低い。しかし研究者によると、これは量子コンピューティング分野における重要なブレークスルーだという。というのも、量子コンピューターの動作中に発生するエラーを減らすことが、30年来の課題となっていたが、このチップがそれを解決するものになるからだとグーグルは述べている。 量子コンピューターは、一般的なノートパソコンやデスクトップパソコンとは異なる。 情報を処理するのに、ノートパソコンなどはビットを用いるが、量子コンピューターでは「量子ビット(quantum bits)」を用いる。ビットは2進数であり、通常0または1のどちらかひとつの状態でしか存在できない。一方、量子ビットは同時に複数の状態で存在できる。 量子ビットによって、はるかに多くの情報を、極めて速いスピードで処理できるようになる。これこそが量子コンピューターの究極の可能性だ。これにより科学や医療に革命をもたらし、気候変動や健康に関連するような、現在の技術では対処が困難で複雑な問題を解決する助けになると期待されている。 しかし、現時点で最高の量子コンピューターでも、処理システムがエラーに圧倒される前に実行できるのは約1000回の演算にとどまると、量子コンピューティング研究者であり、エラー訂正企業Riverlaneのスティーブ・ブライアリー(Steve Brierley)CEOはBusiness Insiderに次のように語っている。 「このような大きな可能性、つまり変革的な技術に到達するには、何百万回、何兆回ものエラーのない演算が可能でなければならない」 そこにグーグルのウィローが登場し、重要なブレークスルーを達成した。グーグルによると、ウィローのシステムが生成するエラーは、量子ビットを増やすほど指数関数的に減少するという。量子ビットを増やしながらエラーを「閾値以下(below threshold)」に減らすことは、1995年以来、解決すべき課題とされてきた。 グーグルが達成したことは処理速度の計測によって明らかになっている。グーグルの研究者は「ランダム回路サンプリング(RCS)」で、さまざまな技術間での計算速度を比較した。RCSはこの分野における標準的なベンチマークであり、従来型のスーパーコンピューターなどと比較して、どれだけ性能が優れているのかを計測する。 RCSでの計測によると、ウィローが5分以内で行った計算を、現在最速のスーパーコンピューターにさせると、10セプティリオン(10の25乗)年かかるという。これは現在わかっている宇宙の年齢を遥かに超える長い時間だ。 ウィスコンシン大学マディソン校の教授で、ウィスコンシン量子研究所(Wisconsin Quantum Institute)のディレクターを務めるマーク・サフマン(Mark Saffman)教授はBusiness Insiderに対し、量子の分野ではエラー訂正が極めて難しく、適切に機能させるには多くのハードウェアが必要になると語った。だからこそグーグルが達成した進歩が非常に重要なのだと述べた。 Riverlaneのブライアリーは、グーグルによる量子コンピューティングの進歩を、モバイルネットワークが第1世代(1G)から第2世代(2G)へ移行したことにたとえた。当時「(モバイル機器向けのチップを開発・製造する)クアルコム(Qualcomm)は、スタックにエラー訂正機能を追加し、これによって機能が大幅に向上した」とブライアリーは述べ、「これはまさに、現在、量子コンピューティングで起きていることだ」と続けた。 エラーを絶えず訂正する機能は、量子コンピューターを構築する上で「重要な部分」だとブライアリーは指摘した。企業が量子ビットをスケールアップし、量子コンピューティングを前進させることができれば、現実世界で応用できるようになるだろう。
現実世界に影響を与えるのは数年先
グーグルはこの開発に関する記者会見で、製薬、材料科学、バッテリーといった分野の企業とすでに提携していることを明らかにした。しかし、これらの分野での進展はすぐには実現しないと見られている。 ウィスコンシン大学のサフマンは、5年以内に現実世界での応用を実現したいと考えているが、その正確な時期を示すのは難しいと述べた。
Ana Altchek