V15の吉田沙保里に高まるリオ五輪4連覇への期待
場内に吉田沙保里の経歴がアナウンスされると、地元ウズベキスタンの人々で埋まった客席はどよめいた。五輪の金メダルをひとつ手にするだけでも大変なことなのに、それを三つ。さらに世界一に14回輝いている。日本よりもレスリングが身近なウズベキスタンの人々は、その記録の重さを知っていた。 ウズベキスタン・タシケントで行われるレスリングの世界選手権、53キロ級で、吉田は前人未到の15連覇を果たした。次の大きな目標は、16連覇であり、「リオ五輪でも金メダルをとって史上初の五輪4連覇」と吉田本人が言うように、2016年のリオ五輪での4連覇である。では、今後塗り替えられることのないであろう五輪史上に残る、その大記録は、2年後に実現可能なのだろうか。 勝負に絶対はないといえど、今大会の試合を振り返る限り、その可能性は決して小さくない。準決勝までは、すべてフォールか相手と10点差をつけるテクニカルフォール勝ち。決勝まで含めても、失点ゼロで世界15連覇を果たした。これほどの大差をつけながら、試合後の吉田が口にしたのは、優勝についての素直な喜びに続いて反省点だ。 とくに1-0とリードして迎えた第2ピリオドで消極性を注意され、30秒間のアクションタイムを指定された点を気にしていた。アクションタイムとは、指定された選手が30秒以内にテクニカルポイントを獲得できないと相手に1点、指定された選手には警告が与えられるものだ。「なかなか自分から攻められなかった。練習だったら勢いよくタックルに入ることもできるのでしょうけれど、決勝戦の直前にアップ場で相手選手が練習している様子を見て、ちょっと怖いと思ってしまった。ガツガツと攻めてくる選手だし、向こうの攻撃を切っても力が強くて手を離さない。試合だと相手に合わせすぎてしまう。そこが私の良くないところだけれど、アクションタイムと言われて覚悟が決まりしっかり勝ててよかった」。 アクションタイムを指定されてからおよそ15秒後、吉田の代名詞でもあるタックルが決まり、終わってみれば6-0という大差での優勝だった。試合スコアをみれば安心しても良さそうな内容なのに、どうして満足しないのか。それは、流れを制した者だけが王者でいられるレスリングという競技の特性をよく知っているからだ。 レスリングの試合では得点源とする得意技へ何回つなげられるかが勝敗に大きく関わる。吉田の場合はタックルがもっとも大きな得点源で、対戦相手は彼女が入りやすい間合いを詰めて密着する時間を増やしてチャンスをつぶす、または返し技で逆に得点へつなげる対策を繰り返してきた。その結果、いまの吉田は以前に比べて相手と組み合う時間が長くなった。その結果、これまでは負傷が少ないことで知られていた選手に、色々な場面で「ケガをした」という声が聞こえてくるようになった。