なぜ米国はイルカ漁に敏感なのか? 米大使が批判発言 /早稲田塾講師 坂東太郎のよくわかる時事用語
「油」目当てか「食用」か
油目当ての国が石油の登場で鯨漁から退散できたのに対して「食用」でもあった日本は簡単に引き下がれません。同じ事情をノルウェーとアイスランドも抱えていますが、両国は1986年の商業捕鯨禁止に異議を申し立てたまま現在も続けています。ここが日本との違いです。 ひっそりと日本の4拠点だけで沿岸捕鯨をしていたのを問題視されたのは、やはり「ザ・コーヴ」の反響が大きいでしょう。太地町のそれが特に反捕鯨国の批判に遭うのは「モリ」を使うオーソドックスな形式でなく「追い込み漁」、つまり網取り式であるのも強い要因です。 アメリカ人メルヴィルの代表作『白鯨』でもみられるようにアメリカでもバシバシやってきたモリ漁は何を目的にするかにかかわらず船上で解体してしまうので、記録者は船に乗り込むしか「絵」を取れません。それに対して網取りはイルカの群れを捕獲網を用いて湾内へ追い込み、文字通り「一網打尽」にする形式なので「ザ・コーヴ」の取材がそうであったように町に潜入して(入国管理さえ正しく済ませば合法です)隠し撮りしても十分「絵」になります。「ザ・コーヴ」に至ってはその手法が却って「秘密を暴く」風の印象を視聴者に与える効果さえもたらしているのでしょう。
米大使の「非人道性」発言の意味
だとしてもケネディ大使の「非人道性」とは何でしょうか。本来この言葉はヒトがヒトにゆえなき害を与える行為に使います。もちろん動物愛護の観点からも用いてもおかしくありませんが、太地町の人は虐待しているのではなく食用なので当たりません。とするとイルカを「ヒトに相当する」と見なしていると考えた方が妥当です。食用目的でヒトがヒトを殺して食べれば文句なく人道に反しますから。 ここで気になるのがイルカ保護活動の中心人物で、「ザ・コーヴ」の「案内人」であるアメリカ人・リック・オバリー氏の口ぐせ「イルカは海の人間」論です。
「ザ・コーヴ」オバリー氏のイルカ論
オバリー氏の経歴はなかなか変わっています。元はイルカの調教師で、そこでイルカの知能の高さを痛感した……というところまではよくある話。そのような「人間の親友」たるイルカを「調教」してショーをさせたり、水族館に閉じ込められているのに憤激し、調教師としての名声を捨てて「イルカ解放」へと立ち上がったのです。過去に調教師だった「罪」を背負っての活動だとか。「海の人間」論以外にもイルカは生態系の上位にいるので水銀を蓄積しており食べたら危険とも唱えています。過去に水銀中毒者が出た形跡のない太地町の住民からすると目が点の話ながらオバリー氏は至極本気。「文化の違い」についても「話せばわかる」だとか。ただ「イルカはかわいい」という通念は実はかなりの日本人も持っているので、オリバー氏と、彼を実質的にサポートする「アース・アイランド研究所」の主張に共鳴する者も多くいます。 --------------------------------------------------------- ■坂東太郎(ばんどう・たろう) 毎日新聞記者などを経て現在、早稲田塾論文科講師、日本ニュース時事能力検定協会監事、十文字学園女子大学非常勤講師を務める。著書に『マスコミの秘密』『時事問題の裏技』『ニュースの歴史学』など。【早稲田塾公式サイト】