さばくまで約2年、買いつけは7年以上…魚屋の森さんがIT業界から転職し一人前になるまで「俺なら買わない魚だな」と父親から嫌味を言われ「思い出してもムカつく(笑)」
さばくまで約2年、買いつけには7年以上厳しい魚屋修業時代
――IT業界から、父親のおこした会社「寿商店」に転職した森さん。まったくの異業種への転職ということで、苦労したこともあったのでは? 魚のさばきを任せてもらえるようになるまで約2年かかりましたね。父は昔気質な人なので、手取り足取り教えてなんてくれない(笑)。父や職人さんがやっているのを必死に真似して頑張りました。 でも、仕入れに関してはもっと時間がかかって、一部を任されるようになるまでおよそ7年、やっと最近になって任せてもらえるようになりました。 ――ごく最近まで任せてはもらえなかったのですね。 いまだにすべては任せてもらえませんし、今日もケンカしてきました。「俺ならこの値段でこの魚は買わないな~」みたいな。いま思い出しても…ムカつく(笑)。 でも私の力不足でもあるんです。やはり長年市場で働いている父に比べると、まだ経験不足ですから。 ――確かに公平な値付けができる商材ではないですもんね。魚屋さんでも値段はバラバラですし。 対面販売の小売店にも立っているのですが、そこに来てくださるお客さまとの会話から見えてくるものもあるんです。 「今度、息子が嫁と孫を連れてくる」といった話が出たら、「あのお客さまのお孫さんはカレイが好きだったよな。今度までに仕入れておこう」と考えますし、いい魚を仕入れ、届けるためにも、人間関係は非常に大事だと思っています。 読者の方で日常的に魚屋さんに足を運ぶ人は少ないかもしれませんが、ぜひ“いい魚屋さん”を見つけてほしい。スーパーの鮮魚コーナーでも構いませんから、まずはお買い物のついでにオススメを聞いてみたりするのもいいかも。
漁業のサスティナビリティ実現のためにできること
――いまの時期、オススメの魚はありますか? 今年はアジがいい感じに穫れている気がしますね。オススメは体高があって、小顔のコ。アジって大衆魚だと思われていますけど、本当においしいアジに出会うと、イメージが変わると思いますよ。あとは旬でいえば、サワラかな。サワラはカツオと同じく旬が2回ある魚なのですが、春ザワラもおいしい。脂が乗って、あぶりの刺し身にすると最高なんです。 ――「旬」も魚の魅力のひとつですよね。 そう、お魚のおもしろみって“旬”なんです。季節によっておいしい魚が異なりますし、食を通じて季節を感じられるのもポイントです。 ――今後、魚の魅力をより広く発信するために描いている展望を教えてください。 若い人、特に子どもに魚を楽しんでほしいので、海がない県の幼稚園や小学校で解体ショーをやっていきたいですね。あとは最近、水産資源管理に興味があるんです。ノルウェー、アラスカといった漁業の進んだ国や地域では、TAC(漁獲可能量)を州ごと、漁船ごとといった細かい区画で分け、お魚を貴重な資源として計画的に運用している。 その結果、安定して魚が手に入り、漁師さんの生活も豊かになる。ノルウェーでは現に、子どものなりたい職業ナンバーワンが漁師さんなんですよ。 私も父がつくった会社を次世代に残したいし、水産大国の人間として、未来の子どもたちにもおいしい魚を口にしてほしい。そのために、「漁業先進国の取り組みを学びたい!」とYouTubeで発信し続けていたら、昨年「アラスカシーフード協会」からスペシャルアンバサダーに任命していただきました。 今後も、より多くの人にお魚や漁業の魅力を発信していきたいので、この記事を読んでぜひ、町の魚屋さんに足を運んでくれる人が増えたらうれしいです。 取材・文/結城紫雄 写真/松木宏祐
森朝奈