日本シリーズMVP! DeNA・桑原将志の告白 「しんどい」なんて僕は言えない
DeNAのムードメーカー
「紅芋タルト!」 11月に行われた『WBSCプレミア12』で、DeNAの桑原将志(くわはらまさゆき・31)が練習中のオリックス・紅林弘太郎(くればやしこうたろう・22)をいじる。まさかの″声かけ″に、言われた紅林も思わず吹き出す。『侍ジャパン』の雰囲気が一気に和(なご)んだ。桑原が振り返る。 【画像】『きつねダンス』を取材中に披露…!DeNAの桑原将志「素顔写真」 「以前から紅林君の名字にかけて『おい、紅芋タルト!』とベンチから声をかけていたんです。同じチームになったから、また言ったろうと思って」 桑原はDeNAのリードオフマンでムードメーカーでもある。ソフトバンクとの日本シリーズでは、1番バッターとして打率.444、1本塁打、9打点のチーム3冠の活躍でMVPに輝いた。一躍、注目のプロ野球選手となった桑原だが、順風満帆な道を歩んできたわけではない。本人が苦難の野球人生を語る――。 大阪府和泉市出身の桑原が野球を始めたのは、小学2年生の時だ。中学時代は『和泉ボーイズ』に所属し、高校は京都府の名門・福知山成美(ふくちやませいび)に進学。三塁やショートのレギュラーとして活躍し甲子園出場経験はないが、3年夏の京都大会で16打数6安打5打点の成績を残す。 「子供の頃からプロ野球選手になりたかったんです。だからベイスターズからドラフト4位指名を受けた時(’11年)は、心から嬉しかったですね。後にも先にも、嬉し泣きしたのはこの時だけです」 ◆「イップスになり……」 だが、喜びも束(つか)の間。プロ入り直後に逆境にブチ当たる。 「チーム事情があったと思うんですが、二塁で起用されることが多かったんです。高校時代まで三塁やショートを守り、二塁手の経験はありません。慣れないポジションで、送球の感覚がつかめずイップスになり……。守備の不振が打撃にも影響する悪循環。『今日も野球かぁ』と、足取り重くグラウンドへ向かっていました。あのまま二塁手を続けていたら、今はプロの世界にいなかったと思います」 転機は’13年に訪れる。当時の山下大輔二軍監督から外野転向を提案されたのだ。 「語弊があるかもしれませんが、二塁手より外野手のほうが思い切り投げられます。送球の悩みは徐々になくなりました。高校の先輩でチームメイトだった柳田殖生(やなぎだしげお)さんの言葉にも励まされた。『あまり先のことを考えるな。一球一打席に集中しろ』と。当時は将来に不安を抱いていたので、気持ちが前向きになりましたね」 一軍での出場機会も増え、’17年には全143試合でプレー。チームも3位からのクライマックスシリーズ下剋上で、ソフトバンクとの日本シリーズに臨む。桑原も1番センターで出場。ところが……。 「初戦の第1打席から14打席ノーヒットで、チームの勢いを完全に止めてしまったんです。第6戦でサヨナラ負けを喫(きっ)して優勝をさらわれた時は、ベンチから動けませんでした。悔しいうえに自分への激しい怒りが湧いて……。もっと成長しなければダメだ。勝利に貢献できる選手にならないといけないと強く感じました」 奇(く)しくも今年の日本シリーズは、’17年と同じリーグ3位から勝ち上がり、ソフトバンクとの対戦になった。しかしDeNAは開幕から連敗。7年前の悪夢がよぎる。桑原は試合後のミーティングで、チームメイトを怒り交(ま)じりに鼓舞した。 「必死に戦っているエネルギーを感じなかったんです。3位から勝ち上がったんだから、負けても仕方ないという妙な余裕があった。腹立たしかったです。『ここまで死に物狂いでやってきた気持ちを忘れちゃいけない』と活を入れました」 第3戦以降、桑原は身体を張ったプレーでもチームを奮(ふる)い立たせる。ヒット性の打球をダイビングキャッチ、ヘッドスライディングでもぎ取った内野安打……。 「ケガを恐れていたらプロじゃありませんよ。身体がボロボロになっても試合に出るつもりです。『しんどい』なんて僕は言えない。苦しい時に支えてくれた人たちのことを考えたら、クヨクヨしていられないでしょう」 桑原はストイックなだけの選手ではない。明るいキャラクターでも有名だ。日本ハムとの交流戦では、ファイターズガールの『きつねダンス』をベンチで踊りまくりパ・リーグのファンも魅了した。 「隣に大和(やまと)さん(37)が座っていたので『笑かしたろ』と思ってね。チームメイトをいじることもありますが、特別な意図はないんですよ。嫌われてもいいので、ありのままの自分でいたいだけです」 ソフトバンクを破り、日本一という最高の形で今季を終えた桑原。重圧からようやく解放されたのだろう。取材の最後には、こう語りホッとした表情を見せた。 「(優勝した横浜スタジアムで)本当にキレイな夜空が見られたんですよ。ずっと気が張っていたので、夢のようでした」 『FRIDAY』2024年12月27日号より
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