「音楽生成AI」を大手レーベル3社が著作権侵害で提訴…一方で新聞出版業界同様「AIとの共存」を模索する流れも
あらゆる生成AIを取り巻く状況はほぼ同じ
一方、先行する画像・テキスト生成AIを取り巻く状況も、音楽生成AIのケースと非常によく似ている。 昨年12月、米国の主要新聞社ニューヨーク・タイムズがChatGPTやDALL-Eの提供元であるOpenAI、並びに同社と提携するマイクロソフトを著作権侵害を理由に提訴した。これらIT企業の生成AIが新聞記事など数百万点を無断で機械学習し、それによるニューヨークタイムズの被害額は数十億ドル(数千億円)に上るという。 また今年4月には、米国のニューヨーク・デイリーニュースやシカゴ・トリビューンなど8つの地方新聞社も、同じく著作権侵害を理由にOpenAIとマイクロソフトを提訴した。 このように一部のメディアが訴訟で争う一方、逆にこれらのIT企業と提携して生成AIとの共存を図るメディアも少なくない。 昨年辺りから米国の通信社AP、ドイツの複合メディア企業Axel Springer、英国のフィナンシャルタイムズ(日本経済新聞傘下)、世界的メディア・コングロマリットのNews Corp、つい先日は米国の伝統誌TIME Magazineなどが、OpenAIとの間で次々と業務提携の契約を交わした。 これらのメディアはOpenAIに生成AIの機械学習に使われる記事などのデータを提供する見返りに、年間数百万ドル(数億円)~数千万ドル(数十億円)の支払いを受けると見られている(一見して分かるように、これらの金額は各社の交渉毎に大きな隔たりがあり、業界全体としては相場が未だ定まっていないようだ)。 このように新聞・出版などのプリント・メディアでは、IT企業を提訴する会社と、逆にこれと提携する会社は別々だが、業界全体として見ると「生成AIに対し訴訟で争うと同時に提携を模索して共存を図る」という点で音楽レコード業界と基本的に同じ図式だ。 今後、いずれの業界も訴訟で相手を牽制しながら、交渉では機械学習用の各種コンテンツの対価として妥当な金額や支払方法(出力・再生回数に応じて変動する印税か、あるいは一括金となるライセンス料か)など落としどころを探る展開になっていくだろう。
小林 雅一(作家・ジャーナリスト)