安楽死への旅路、仏からベルギーに AFPが同行取材
■1月31日(水) ブリュッセルの病院で
処置を翌日に控え、眠りに就く前にリディさんは主治医のロクト氏と最後の面談を行った。
「処置を受けることにためらいはありませんか」とロクト氏が聞くと、「はい! 絶対に目が覚めることはないんですよね?」とリディさんは答えた。
「気掛かりなことがまだあるなら、話してみて」
「後に残していく人たちのことを考えていて」
「残される人たちがどう思うかというと。どんなに悲しんだとしても、分かってくるはずです。あなたが解放されて自由になったんだって」とロクト氏は話した。
対話を終えると、リディさんはロクト氏を抱き締めた。
■2月1日(木) 処置当日
ブリュッセルの朝はすがすがしく、さわやかな青空が広がっていた。リディさんの病室にはカーテンが引かれている。
ベッドの両脇にはマリージョゼさんとドニさん夫婦が座っている。農業政策に対する農家の抗議活動で市内では渋滞が起きていたが、ロクト氏は時間通りにやって来た。
ロクト氏が最後にもう一度、死を希望するかどうかを尋ねた。リディさんの答えはイエスだった。
「分かりました。準備をしてきます。このまま少し待っていてください。数分で戻りますから」
ロクト氏の同僚の医師で、緩和ケア病棟の責任者が狭い研究室の中で麻酔剤の「チオペンタール」などを調合する。
注射の準備が整い、医師たちがリディさんの病室に戻ってきた。ドニさんから責任者を紹介されたリディさんが「じゃあ、彼がビッグ・ボスなんですね」と言うと、笑いが起きた。
皆がベッドの周りに集まり、最後の言葉が交わされた。ロクト氏が「リディ、さようなら」と声を掛けると、リディさんは「天国でまた会えますよね?」と問い掛け、こう続けた。
「じゃあね。バイバイ、ベルギーの皆さん。バイバイ、フランスのみんな!」
持ち主のいなくなった車いすが、リディさんの病室のドアを向いて置かれている。医師たちが病室から出てきた。
ロクト氏が自身の気持ちを語った。
「彼女は病気によって少しずつ命を奪われていたのだと思っている。私がその痛みを終わらせた。そこは、私の医師としての倫理観に沿っている」