桂由美「93歳、ウェディングドレスを作り続けて60年。当時は呉服業界や姑たちの反発に遭ったが〈お色直し〉で普及していった」
◆夫のアドバイスでターバン姿に 私生活では、42歳のとき、11歳上の大蔵省の官僚だった人と見合いで結婚しました。私が若いころは見合い結婚が主流。20代は仲人さんからたくさん縁談が舞い込んできましたが、優秀な男性は異口同音に、「結婚したら仕事はやめてくれますね?」。 学校とお店の二足のわらじを履こうとしているのに、そんな縁談は受けられません。そうこうしているうちに、当時としては婚期を逸したわけです。 40歳になったとき、このまま誰とも縁がないまま終わるのは寂しいと思って仲人さんに相談したところ、白羽の矢が立ったのが夫となった人でした。見合いの場所はホテルオークラ。仲人さんからは、着物を着ていくようにと言われました。それが当時の常識だったんです。 後に夫から、「ファッションデザイナーと会えると思って勢い込んで行ったのに、着物姿の女が現れて……」と言われました。形にとらわれない感覚の人だから、感性が合ったのだと思います。 あるとき、夫がこう言いました。「黒柳徹子さんはタマネギ頭がトレードマークになっている。君も髪形を決めて、誰が見ても桂由美だとわかるようにしたら?」。いいアドバイスですよね。 そこで思いついたのが、ターバンです。帽子デザイナーの第一人者だった平田暁夫さんにお願いしてターバンをデザインしてもらい、以降、トレードマークにしました。
◆まだまだ新しいことに取り組みたい 81年、アメリカの市場に向けて日本製品をアピールするイベントに参加することになりました。そのときに生み出したのが、着物のお引きずりから着想した「ユミライン」のドレスです。 当時日本では女性の結婚年齢は20代が主流でしたが、アメリカでは40代、50代で結婚し、式を挙げる人もいます。そういう方は、スカートが大きく膨らんだロマンチックなドレスより、もう少し大人のエレガンスを表現できるドレスのほうがよいのではないか。それを、日本の最高級のシルクで作ってみようと思ったのです。 おかげさまでユミラインは大好評。今も欧米の花嫁の定番ドレスとして、人気のシルエットとなっています。 目下進めているのが、アニバーサリーウェディングの提案です。結婚40年のルビー婚式や、45年のサファイア婚式、50年の金婚式など節目となる年に、子や孫、親しい人をお招きしてパーティをすると、いい記念になるのではないでしょうか。 最近は結婚しない若者が増えていますし、結婚しても式を挙げない人も多いですよね。でも若い人も、親や祖父母のアニバーサリーパーティに出たことで、自分も早く結婚したい、式を挙げてみんなに祝福してもらいたいと感じるみたいです。 私は戦争中、本当に紙一重のところで命を保つことができました。だったら、精いっぱい生き切らないと申し訳ありません。まだまだ、やりたいことやアイデアがあります。命が続く限り、新たなチャレンジを続けていきたいですね。 (構成=篠藤ゆり、撮影=大河内禎)
桂由美