延長12回5時間の激闘で敗れたロッテ井口新監督が見せた変革の兆しとは?
5回の先制点。それも足攻からだった。一死からレフト前ヒットで出塁した荻野は、二盗を仕掛けて成功させた。則本へプレッシャーをかける。藤岡の一塁ゴロで三塁へ。「2度チャンスで打てなかった。3度目はなんとかしないといけない」。サードからのスローイングに不安があり、打撃に集中するため、セカンドへコンバートされ、3番に抜擢された中村奨吾が則本のストレートをとらえ左中間にタイムリー三塁打を放つ。 追加点につながらなかったが、三塁を落とした走塁を井口監督は評価していた。 4回にも二死一塁から福浦和也にエンドランのサイン。結果、楽天のショートストップ、茂木栄五郎の逆をつく打球となり、福浦に、通算1963本目のヒットをもたらして得点圏に走者を進めた。 逆転を許した8回にも、二死から足のある加藤翔平がセンター前で出塁すると走らせた。土壇場に同点に追いついた9回にも、二死からルーキーの菅野剛士が四球を選ぶと、代走に岡田幸文を送り二塁を狙わせた。逆をつかれて牽制にひっかかったが、「いつでも」、「どこからでも走る」というチーム方針がハッキリと浮き彫りになった。スタメンに荻野、藤岡、加藤と“韋駄天”を3人並べ、代走要員には岡田や三木亮が待機している。相手バッテリーにすれば脅威だろう。 二つ目の変化は、バッティングのしぶとさである。とにかくボール球を振らなかった。 「四球はヒットと同じ」という金森新打撃コーチが説く理論が早くも浸透している。 則本には7回で150球も投げさせた。 藤岡、菅野というルーキー2人が則本クラスの誘い球にバットが微動だにしないのには感心した。 藤岡は、三塁打、二塁打、中前打と猛打賞デビュー。トヨタ自動車出身の前評判の高いドラフト2位だが、プロで何年も食っている選手のようにタイミングの取り方に“間”と“余裕”があった。あと本塁打が出れば、前人未到のルーキーのサイクル安打デビューという大記録が見られるところだった。運よく延長11回にも、打席が回ってきたが、スタンドからは「ホームラン」の大合唱が起きた。 藤岡は「則本さんのストレートが速いので振り負けないように自分のスイングをしよう」と心がけたという。中村の先制打も、守護神の松井裕樹から「今日は落とせない試合」と執念の同点打を一、二塁間に打った鈴木大地も、ストレートを打った。「詰まってよし」。下半身、腰で振り切るという金森打撃理論の基本は、ストレートに振り負けないスイング力である。だから必然ポイントはミット寄りとなりボールを長く見るので選球眼が良くなり、いわゆる誘いボールを見逃すことができる。 5時間の激闘の末、惜敗はしたが、井口監督は公約通りに「変わりつつあるロッテ」を見せてくれた。 ベンチでは率先して井口監督自身が大声を出し、チームを叱咤激励していた。 しかし、同時にチームが、その編成上抱えている不安も露呈させた。